噂とかジンクスとか、結構信じちゃうほうで。けど、それに振り回される自分ってバカバカしいなと思ったりもする。

朝比奈(あさひな)ぁ!! 俺たちの文化祭後一回しかないぞ」
夕田(ゆうだ)。今、今年の文化祭終わったばっかなんだけど」
 九月上旬に行われた文化祭は何事もなく幕を下ろした。
 俺――朝比奈千桜(あさひなちはる)のクラス、二年三組の出し物はお化け屋敷で、現在撤収作業をしている。小物にもこだわったため、片づけにはかなり時間がかかっていた。
 段ボールを片手で持ちながら、もう片方の腕を俺の肩に乗せてきた友だちの夕田穂(ゆうだみのる)は、片づけが面倒だの愚痴を垂れていた。また夕田は、文化祭のためにとツーブロックにしていたため、昨日先生にこっぴどく怒られていた。彼はノリがよくて後先考えないクラスでお調子者の立場だ。
 逆に俺は、クラスでの立ち位置はモブと変わらない。ちょっと世話焼きな、お人よしというポジション。
 あと、すぐに外ハネになってしまう自分の髪の毛が少しコンプレックスな平凡男子。寝癖はいつも二個以上はあるし、頑固で全然ぺたんとなってくれない。
「ああ~でも、この後の打ち上げは楽しみなんだよな~」
「打ち上げの話はいいから。まずは、片づけ終わらせなきゃだし。夕田、片手で段ボールもって落とさないでね」
 夕田は"大丈夫V"なんて古い返しをして、「打ち上げ焼肉だっけー」と独り言を口にする。
 俺はそんな夕田を横に、床に散らばったごみを集めてゴミ箱へ入れる。
 その最中、クラスの女子がキャッキャッと盛り上がっている声が聞こえてきた。
夜野(やの)くん、この後の打ち上げくるよねー」
「よければ、うちらの席の近くに来てよ」
「……パス。ねみぃから帰る」
 えーと、女子の声のトーンが下がる。
 どうやら、女子たちは片づけをほったらかして、()を取り囲んでいるようだった。
「チェッ……夜野のやつまた囲まれてるぜ」
夜野四葉(やのよつば)……くん」
「あんなやつに"くん"なんてつける必要ねえし! 入学してから一か月に一回は告白されてるっていういけ好かないイケメン!」
「それは盛りすぎじゃない?」
 彼女たちに囲まれていたのは夜野四葉(やのよつば)という男子生徒。
 夕田のいうようにすごくモテる男で、みんなが振り向くほどの容姿を持ったイケメン。男の俺でも、同じクラスになった当初はその圧倒的な美形に驚かされた。
 等身が高くて、スタイルストでもついているのかと思うくらい毎日完璧な髪型、目鼻立ちも整っていて黄金比。
 苗字の通り、静かな夜を詰め込んだような一見静かでクールな雰囲気は目を惹くものがあった。
 ただ、不愛想で誰に対しても塩対応。そのうえ、いつも一人でいることが多い。彼に話しかけるのは同じクラスの日尾茅人(ひおかやと)っていうクラス委員長だけだ。噂によれば、二人は小学生からの付き合いなのだとか。
(いつも一人……なんだか一匹狼みたいだな)
 俺も何度か事務連絡のために話しかけたことがあるが、プリントを渡しても「ん」とか、不愛想レベルがカンストしたとっつきにくい性格をしていた。あれは、友だちができないタイプだなと直感的に思うと同時に、容姿で得しているから女子たちが集まるのだろうと思った。別に嫉妬はしないけど、本人はいつも女子たちに囲まれて鬱陶しそうにしている。いわゆる、ずっと見ていたいイケメンというやつなのだろう。
 夕田は夜野を見て、ギチギチと歯ぎしりをしていた。ちなみに夕田は惚れやすいタイプで、この間好きになった女子に告白して玉砕していた。しかも、その女子は夜野が好きだといったらしいのだ。それもあって、夕田は夜野に嫉妬を抱いている。
 俺はそんな夕田を宥めながら、早く片づけをしようと声をかける。
「てか、今年"アレ"あったんかな?」
「アレって?」
「俺らの高校の名物ジンクス! 文化祭中にキスしたやつはめっちゃラブラブバカップルになるっていうやつ!!」
「わ、くだんな……てか、キ……チューするってことは好き同士だからじゃないの?」
「チューって、朝比奈子どもだなあ~照れてんのか? 照れてんのか?」
「うざ……」
「まあ、そーだな。事故でキスっていうのもあるみたいで。つか! その事故が文化祭中には沢山起きたりして……」
 ますますくだらない。
 どんなジンクスだ、と思ったが、片づけをしていたクラスの男子が「あー俺もそれ知ってるー」と言ったことで、このジンクスがわりとメジャーなものであることを知った。
(俺、去年もこの学校にいるけど知らないんだけど)
 夕田はジンクスを知っている男子と意気投合したらしく、片づけを放り出して話し始めた。耳をすませば、「これ、片方が好意持ってる感じでも発動すんのかな」と、まるでジンクスを魔法かなにかと勘違いしているような発言が聴こえてくる。
(ラブラブに、ね)
 そうだとしたら本当に魔法だ。
 まあ、俺は、そんなジンクスなんかで誰かとラブラブになりたいわけじゃないし、好きな人がいるわけでもない。
 いつもの男子のノリだな~と苦笑しながら、夕田が机の上に置いた段ボールを抱きかかえる。この後打ち上げがあるなら早く片づけは終わらせたほうがいいだろう。
 夕田たちはまだジンクスで盛り上がっていたが、俺は人知れず片づけを進めようと思った。
「そうだ、朝比奈。この後――」
「わっ」
 夕田がいきなり立ち上がり、彼の肘が俺にぶつかる。俺は彼の肘にぶつかりバランスを崩しよろけた。
 そして、ちょうどそこにあの夜野がいて――
「――っ!?」
 ふにっと柔らかいものが唇に当たる。凹凸のあるちょっと湿ったもの――唇だ。
 パチパチと瞬きすれば、同じく目を丸くした夜野の黒い瞳と目が合ってしまった。
 それから、ワンテンポ遅れてキャー!! と悲鳴のような声が上がる。そんな女子の声に、バチっと意識が弾かれ我に返る。教室の賑わしさが耳に戻ってくる。
(今、俺、夜野とキス……)
 唇が離れる。
 触れたのだって一瞬だったのに、その時時間が止まって感じた。それが、なんだかジンクスが発動したように思えて、恋に落ちてしまったような感覚になる。
(いや、気のせい……)
 先ほど夕田たちがあんなことを言っていたから、まんまとその気になってしまうところだった。
 俺は、持っていた段ボールをその場に落とし、近くの机に手をついた。倒れずに済んだものの、まだ少し足元がふらつく気がする。
「や、のく……」
「……チッ」
「ちょっ!?」
 盛大に舌打ちした夜野くんは、グイッと口元を腕で擦り、逃げるように教室から出て行ってしまった。バンッ!! とものすごい音が教室に響き、その瞬間だけ教室からすべての音が消える。
 だが、ほどなくして教室中は先ほどよりもガヤガヤと騒がしくなった。
 俺は、自分の唇に手を当てぽかんと夜野くんが出ていった扉を見つめていた。今起きたことがすべて信じられず、その場に立ち尽くすことしかできない。
 そんな俺に、デリカシーのない夕田が指をさす。
「あ、朝比奈、今……」
「なっ、夕田が」
「いや、わりぃ……ってぇ! 朝比奈がちゃんと受け身とらないからだろ!」
「お、俺のせい!?」
 夕田は最初こそ謝る姿勢を見せたが、すぐにも俺のせいだと責任転嫁し、非難し始める。
 さすがにそれは横暴だろ、と思ったが俺もあれしきのことでバランスを崩してしまったので強くは言えなかった。
 だが、問題はそこじゃない。
「え、今の見た」
「ヤバかったよね」
「マジで、夜野くんとキス?」
 女子たちがコソコソと先ほどのことに関して議論を始める。俺に向けられる目はだんだんと鋭いものになっていき、いたたまれなくなっていく。
 男子たちは「ジンクスがー」など言っているが他人事だからとのんきなものだった。
 そうこうしていると、他の場所の片づけに行っていた担任が教室に戻ってき「まだ終わってないのか!?」と俺たちを怒鳴りつける。担任のお叱りを受けた俺たちは「すみません」とやる気なく謝って手を動かし始めた。
 でも、俺は夜野のことが気になって仕方がなく片づけに身が入らなかった。
(てか、俺舌打ちされたんだけど)
 さすがに、あまりしゃべらないクラスメイトとはいえ傷つく。
 とはいえ、夜野も嫌な顔をしていたから謝ったほうがいいかもしれない、という気持ちもあった。
「……夕田、ちょっと片づけ頼む」
「はあ!? お前サボる気かよ」
「さっきの悪いって思ってんなら、少しぐらい任されてよ」
 じゃ、と俺は夕田に有無を言わさず押し付け教室を出た。みんな、担任の目を気にして片づけをしているので俺が教室を出ていったことに気づいていないようだ。
 廊下に出れば、すでに片づけを終えた他のクラスが「打ち上げどうするー」と話しているのが聞こえる。どのクラスも俺たちのクラスと同様に打ち上げをするみたいだ。
(俺、本当は、疲れたし帰りたいんだよな……)
 みんなとワイワイするのは楽しい。でも、時々燃料が切れて一人きりになりたい時がある。
 もちろん、クラスのみんなは好きだし、夕田とか、他にもたくさん友だちはいて毎日楽しいけど。オンオフ切り替えても、たまにオンにしっぱなしにしてしまい、息切れするときがある。そういうときは一人カラオケとかで発散するのが俺のストレス管理方法。
(けど、世渡り上手なだけで、特定の誰かと仲がいいわけじゃないし)
 親友とか、あるいは恋人とかに憧れがあったりもする。まあ、俺の性格じゃ誰も恋人にしてくれないだろうけど。

◇◇◇

(いったい、どこにいるんだよ)
 しばらく探し回ったが、夜野くんは見つからず、どこに行ったかも皆目見当がつかなかった。
 もう帰るかとトボトボと廊下を歩いていると、ふと男子トイレの前を通ったときジャーと水が出しっぱなしになっている音を耳で拾い、足を止める。自慢じゃないが、俺は人よりもちょっと耳がいい。
 そういえばこのトイレだけ、まだ自動じゃないから、たまに蛇口をひねるのを忘れて出しっぱなしで放置されることがあることを思い出した。
 俺は、水の音が響く暗い男子トイレに入る。
 小さな小窓から入る光りは微々たるもので、夕日の細い光の線ががタイルの床に伸びていた。
「夜野くん?」
「は? 何、お前追いかけてきたのかよ?」
 男子トイレに入ってすぐ、水道の前で呆然と立ち尽くす夜野くんと目が合った。
 彼は俺と目を合わせるなり、眉間にしわを寄せ明らかに不機嫌なオーラを出す。
(こわっ!! 何で、俺睨まれてんの!?)
 女子と話すときよりもあからさまに不機嫌マックスに睨みつけてくる夜野くんを前に、頬が引きつってしまう。
 俺が一体何をしたというのだろうか。
(キス、したけど。あれは、その、事故、だし……)
 でも、あっちはそう思っていないかもしれない。
 夜野くんは水道をひねることなく俺を睨み続けていた。
「んで、何で追いかけてきたんだよ」
「いや、夜野くんがいきなり教室出ていったから。あと、謝りたかったし」
「はあ~~~~……」
 夜野くんはわざとらしく大きなため息をつき、少し濡れた手でグッと髪をかきあげた。その姿はとても高校二年生が出せる色気ではなく、ついつい見入ってしまった。しかし、俺が見惚れている合間に夜野くんは距離を詰め、トンと俺の胸を指さした。
「謝るって……何に対して?」
「キ……チューしちゃったこと。夜野くんが、嫌、だったかな、とか」
「……嫌とか、嫌じゃないとか。はあ、まあどうでもいいし」
(――じゃ、じゃあなんで舌打ちして教室出てったの!?)
 そんな言葉を飲み込みつつ、当たり障りのない笑みを浮かべる……が、そんな俺の気を使った笑みにさえ「キモ」と一蹴する。
 俺は、何でこんなやつが女子にモテるのかよくわからなかった。性格が終わっている……気がする。
 だが、ここでことを大きくしたいわけじゃないし、もしかしたら夜野のファーストキスを奪ってしまったかもしれないという、ちょっとした罪悪感もあった。そのため、反論をぐっと飲み込むしかなかった。
「それで、朝比奈千桜(あさひなちはる)。教室の片づけ終わった?」
「え? ああ、まだ。先生帰ってきて怒られたから、ちょっとは片付いたと思うけど」
「あっそ」
 自分から聞いたくせに、その態度はなんなんだろうか。
 俺はこのタイプの人間が初めてで、どう接すればいいか全くわからなかった。
 ただ、夜野くんが教室に戻りたくないんだなというのだけは分かる。
(というか、俺の名前……)
 しゃべったことなんて一、二回。しかも、普段人に興味がなさそうなのに意外だった。
「何驚いてんの? お前の名前くらい知ってる。お前、目立つから」
「目立つって、夜野くんのほうが目立ってるじゃん」
「俺は目立ちたくて目立ってるんじゃない」
 夜野くんはそうぶっきらぼうに返して、ふいっと顔を逸らす。
 俺は、そんな人から注目されるようなことをしていない。普通に男子とだべったり、時々女子のお願い聞いたりして。クラスで話せない友だちはいないと思う。この夜野くんを除いて――
「で、お前は戻らないの?」
「そういう、夜野くんは戻る気ないんだよね。まあ、さっき注目されたし……」
「お前が出てきたせいで、余計に俺が教室帰りにくくなったんだけど? しかもなんかジンクス? ってやつで、男子は盛り上がってたし」
 ハッ、と夜野くんは呆れたような表情で嘲る。
 でも、俺は、そんな夜野くんの瞳が少し寂しそうで苦しそうなことに気づいてしまった。
 俺は、昔から人の些細な変化にすぐ気づくのが特技だった。それは、今の日常生活で有効活用していて、クラスでの立ち回り、グループでの立ち回りにおいて真価を発揮する。
 だから、夜野くんの表情を見て訳ありだなとすぐに気付いてしまった。かといって、夜野くんの場合どうするのが正解というのはよくわからない。何故なら俺は、夜野くんのことをよく知らないから。
 夜野くんの言う通り、ジンクスで半場盛り上がっているクラスに、先ほどキスしてしまった俺たちが帰ったらそういうふうに見られてもおかしくない。俺が夜野くんを追いかけてきてしまったのが間違いだったかもしれない。けど、そんなの今更どうにもできない。
 俺はどうにかいい方法がないかとぐるぐると思考を巡らせた。しかし、考えれば考えるほど頭の中がこんがらがって、解決方法が思い浮かばない。
 そして、ある時プツンとその思考回路の線が切れて咄嗟に彼の名前を呼んでしまった。
「や、夜野くん」
「今度は何、お前から教室に帰れば――は?」
 俺は片方の手を胸に当て、もう片方の手を夜野くんに差し出した。自分でも何をやっているのか少しわかってない。
 夜野くんも、驚いて目を丸くしている。
「俺、夜野くんにキ、キ……チューした責任取るよ」
「は、はあ?」
「だから、夜野くんに事故チューした責任取るって言ってんだよ!」
「うっさ。聞こえてるし」
 夜野くんは、先ほどよりも威勢がなく、驚いて返す言葉もないようだった。
 しかし、俺も、そんな夜野くんの顔を見てまた我に返る。
(――いや、俺……何言ってんの!?)
 思い切り意味不明なことを口走ってしまった。やらかしにもほどがある。
 自分の発言にパニックになりながら、訂正だけしたほうがいいかもしれない、と口を開くが、何から訂正すればいいかもわからなかった。
 とにかく頭の中で、「キスをした 責任をとらなきゃ」という言葉だけが回っていた。責任はどこから来たんだといわれたら、どこから来たのか分からない。
「ああ、今のは、その、なんていうか……」
「その言葉、本気(マジ)?」
「え?」
 顔をグイッと近づけてきた夜野くんは、俺の瞳を覗き込む。
 あまりにも整った顔がすぐそこにあるので、また眼がぐるぐると回ってしまう。男の俺でもこんなふうになるんだから、女子だったら倒れているだろうな、と少しでも意識を逸らそうと頑張った。
 だが、夜野くんは俺の眼を見ろといわんばかりの眼圧をかけてきたので嫌でも彼と目を合わせるしかなくなる。
「だから、その言葉本気かって聞いてんだけど」
「う、うん……」
「嘘じゃない?」
 それはまるで脅迫のようだ。この状況で嘘です、なんて言えないし、訂正もできない。
 そもそも、責任取らせてもらえるならそうしたい。夜野くんが少しでも嫌じゃないのなら、俺はできることをしたいとさえ思った。
 しかし、俺は肝心な時に声が出ず、こくこくと首を縦に振ることしかできなかった。
「――そ。じゃあ、責任取ってもらうから」
「おわあっ!?」
 夜野くんはぼそりと何かを言ったかと思うと、次の瞬間、俺の手首をつかんだ。彼の手は血管が浮き出ていて、大きくて、力強い。
 俺は引きずられるようにして夜野くんについていくことしかできない。
 すでにリュックを背負って帰る他のクラスのやつに「何あれー」と変な目で見られて恥ずかしい。でも、当の本人である夜野くんはそういう目は気にしないようだった。
(さっきは、めちゃくちゃ注目されるの嫌がってたくせに!!)

◇◇◇

 夜野くんに引きずられるまま連れてこられたのは、まさかの俺たちの教室だった。
 教室の後ろ扉は閉め切られており、中から楽しそうな声が聞こえる。
 俺は、まさか――と思ったが、そのまさかで、夜野くんはピシャン!! と教室の扉を開ける。中はあらかた片付けが済んだようで、だべっている人であふれかえっていた。そんなみんなの視線が俺たちに注がれる。先ほどよりもその数は多いように感じる。
「や、夜野くん何すんの……?」
 俺の手首はまだ夜野くんに掴まれたままだった。離す気がないような目でこちらを見ると、フッと不敵に微笑む。その笑みの意図は俺には理解できなかった。
 そんな俺のことなど気づくはずもなく、夕田含む男子が俺のほうに寄ってくる。
「朝比奈ったくどこ行ってたんだよ……って、夜野連れて帰ってきて……」
 夕田の目線は、夜野くんに掴まれた俺の手に注がれる。
 恥ずかしいから見ないでほしいのに、と思っていると、夜野くんはそのまま俺の手を持ち上げて高らかに宣言する。
「俺、朝比奈と付き合うことになったから」
「へ……」
(は、はあ――!?)
 聞いていない。
 クラス中にいたみんなも俺と同じ反応をしている。女子なんかこの世の終わりみたいな顔をしていて少しかわいそうにも思えてきた。男子も手に持っていたスマホを落とすやつもいて、みんなこの大告白には衝撃を隠せないようだった。
 いや、俺が一番びっくりしている。こんなの公開処刑だ。
 みんなの視線を浴びつつ、情報整理が追い付かない頭でパクパクと口を動かしていれば、夜野くんがこそっと俺に耳打ちをする。
「てことで、ちゃんと責任取れよ。朝比奈」
「な、な、なん……」
 してやったりと笑った夜野くんの顔はとても意地悪で、でもムカつくくらいかっこよかった。いつも不機嫌そうだから、その顔は新鮮で、俺の脳裏に焼き付いていく。
(せ、責任って恋人になるってこと!?)
 あの時咄嗟に出てしまった言葉が、まさかこんな大ごとになるなんて思ってもいなかった。
 だが、みんなの前で宣言されてしまった以上、撤回など夢のまた夢。
 俺は何故か、今日この瞬間からクラス一モテる男子・夜野四葉くんの恋人になってしまったのだった。