陰キャ死神公爵にベタ惚れした令嬢のイチャラブ日和

 旦那様はダンスが苦手らしく、一度も踊っている姿を見たことが無い。
 むしろ皆がダンス中は必死にオーラを消そうとしているようにすら見えた。

 今も口を閉ざし、腕組みして壁と同化しようとしている。いや、出来てませんからね?
 推しの神々しさは隠せてませんからね?

 目立つのが嫌なのだろうか……? 考えてもわからんので本人に聞いた。

 「踊らないんですか?」
 「……」
 「踊らないんすか?」
 「……」
 「踊らないんでゲスか?」
 そこで旦那様がキッと此方を見た。

 「なんで、だんだん下品になってゆくんだ!」
 「何か答えてくれないと、どんどんゲスモブになる仕様でヤンス」

 そこで旦那様は渋々、教えてくれた。

 「……ダンスは苦手なんだ。学院でも成績が悪かった」

 あ、普通に苦手な人だったわ。

 (う~ん……。それなら……)

 私は一つの案を思いついた。
 めっちゃ怒られる可能性もあるけど……。

 でも、推しが尊いってのは、皆に知ってほしい!

 そこで私は旦那様の手を取った。
 そして会場へ引っ張り出す。

 「私に全部任せて、力を抜いてください!」
 「な……!?」

 驚いてよろける旦那様に私は華麗にターンして、まるで旦那様がリードして情熱的に踊っているように見せかける。
 更にドレスの裾を踏みかけた旦那様の足を素早く避け、見えないように旦那様の足をスカートの下から調整して紳士的に足さばきしているようにして見せた。

 周りで踊っていた男女から歓声が上がる。

 何を隠そう、私のダンスの成績は特A!

 語学とか数学は壊滅的だったけど、体育は得意なのよ!
 脳筋令嬢とよばれてたくらいですもんね!(誇れない)
 体格差がある旦那様のリードだって、楽勝楽勝♪

 そうして旦那様を『リードしているように見せる』ことなんて簡単なのだ。
 旦那様は脚も長くてスタイルが良いので、ダンスが更に映える映える!

 いつしか宴の間では私と旦那様の独壇場になっていた。
 ターンで拍手が起こり、うっとり見惚れている令嬢もいる。おい、私の旦那様だぞ。目玉出せ。(ホラー)

 そうしてダンスを終えた時、会場中に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
 紳士淑女が噂する。

 「誰だ、公爵が踊れないなんて言っていた奴は」
 「素晴らしかったですわ!」
 「なんて情熱的で美しいダンスなんだ!」
 「次はわたしと!」

 ダンスの申し込みが私にも旦那様にも殺到したけど、私は旦那様の腕を組む。

 「申し訳ありません♥旦那様は私以外の女性とは踊りませんの。オホホホホホ」

 正確には「踊れません」だけど、まぁ、間違っちゃいない。
 周りは「今度の奥方様は相性が良いんだ」と思ってくれたみたい。せやろ?

 では旦那様の代わりに、この私と踊りましょうか~……と、ダンスの誘いにのろうとする。
 他の男性の手をとろうとしたら、旦那様に肩をぐいっと抱き寄せられた。

 (え……?)

 口下手な旦那様だから上手く言えないみたいだけど、旦那様が一睨みしただけで、私に群がってた男性陣は蜘蛛の子を散らすみたいに去って行った。

 私が旦那様を見上げると、顔を赤くして(耳まで)ぼそぼそと呟く。

 「……悪い気は、しなかった」
 「!」
 「ただし、もう1度やれと言われれば、御免だがな」

 そう言いながら、灰色の髪を揺らして壁へと戻ってゆく。
 そして、指でちょいちょいと自分の横を示した。

 どういう意味か、はかりかねてると「……此処に居ろ」と言われた。

 「君は目を離すと何をしでかすかわからないからな」
 「キャ♥うれしーい♥」
 「褒めてないぞ!」

 こうして初の舞踏は大成功で終わったのだった。