陰キャ死神公爵にベタ惚れした令嬢のイチャラブ日和

 その日からギニョール君はクラン様のお屋敷で暮らすようになった。
 私は、といえば……。

 「ギニョール君♥おやつ食べる?」
 「ギニョール君♥キャッチボールしない?」
 「ギニョール君♥お昼寝しよっか♥」

 絡みまくった結果、本を読んでるギニョール君から冷たい目で「読書の邪魔なので近づかないでください」と言われた。
 くっ……! しつこすぎたか! 作戦変えよ!

 しかもギニョール君と仲良くしようとしてるのに、なんかクラン様拗ねてるし。

 「……アリエンは根暗な男なら、誰でもいいんだな……」

 陰の者の自覚がおありなのですね……。ていうか我が子にまで根暗とか!
 そこは訂正を求めた。

 「ひどーい! 影がある男(と男の子)が好きなだけで、根暗とか思ってないですぅー!」

 勿論、陰キャな女の子も大好きだけど、それ言うと誤解されそうなので黙っておいた。

 私はクラン様の執務室のソファで、ぼよんぼよん飛び跳ねながら悩む。

 「どうしたらギニョール君と仲良く出来るのかなあ~」

 そうするとクラン様が書類を片付けながら教えてくれた。

 「ギニョールは外に出たがらないが、鳥を見るのは好きなようだ。さっきも見に出かけていた」
 「それや!」
 私がビシィ! とポーズをとる。しかし先に釘を刺された。

 「くれぐれも無理矢理に連れ回したり、鳥の仮装で追いかけるんじゃないぞ」
 「クラン様! 脳内の思考、読まないでください!」
 「やっぱり仮装する気だったのか! 面白いから絶対に止めろ!」

 クラン様とは、だいぶ打ち解けたので、ギニョール君とも打ち解けたい!
 その想いで私はギニョール君がバードウォッチングをよくしているという大樹の元へ向かった。

 『邪魔です』と言われないように、そーっとね。

 すると、子供達の声が聞こえてきた。
 遊んでいる声ではなく、揉めているようだ。
 木の裏から覗き込んでみる。

 すると、ギニョール君を囲んで近所の子供達が、やいのやいの言っていた。

 「おい、ギニョール、お前さぁ公爵家の子供の癖に、そんな暗くて恥ずかしくねぇの?」
 「父親が死神公爵だもんな! おい、ギニョールに触れたら死ぬぞ~アハハハハハ」
 「根暗のギニョール! 根暗のギニョール!」
 「何とか言ってみろよ死神の息子~!」

 ギニョール君の表情は見えなかったけど、肩を震わせて耐えているようだったっていうか、既に脳筋の私は走り出していた。
 ギニョール君が肩を押されて泥水に倒れ、皆に足蹴にされていたからだ。

 「待てぇえええええええええええい!」

 私は近くにいたガキ……お子様にラリアットする。吹っ飛ぶガk……お子様。
 勿論、手加減はした。(私的に)

 それからは殲滅戦の始まりだった。

 ダブルラリアットでいじめっ子を吹き飛ばし、ジャイアントスィングで放り投げる。
 (※手加減とは)

 いじめっこどもが「なんだよお前!」と泣きながら叫ぶので、私は髪をかきあげてギニョール君の前に立ちはだかった。

 「ギニョール君の母でございまぁす♥以後よろしくしなくていいからね♥しばくぞ♥」

 そうして私がギニョール君を立ちあがらせて泥をハンカチで拭いてると、ガキどもが喚き出す。

 「死神公爵の13番目の嫁だ!」
 「うわっ、不吉~!」
 「子供相手にケンカして、恥ずかしくねーのかよババア!」

 ……すぞ と思ったけど、ギニョール君をこれ以上、怖がらせてはいけない。怒りを極力抑えて、叱りつけた。

 「五月蠅いわ! 大人しい子を大人数で虐める方が恥ずかしいんじゃオタンコナス! あとクラン様は死神じゃねーから! 大体あんなにも麗しくて清らかで尊くて優しくて……」

 私がクラン様の魅力を軽く1時間くらい語っていると、ガキどもは「怖いよ~」「俺達と違うものが見えてるよ~」と泣きながら帰って行った。ちょ、待てよ! まだ途中だってばよ!

 そして、残されたのは泥だらけのギニョール君と、ケンカで土がついた私だけ。

 「ギニョール君、大丈夫?」
 私が屈みこむと、ギニョール君は涙を堪えながら口を開いた。

 「……恥ずかしくて情けないと思ってるんだろ。やり返せなくて、女の人に助けてもらって……」

 そんなギニョール君に首を振る。

 「恥ずかしいのは、虐める方よ。いじめられた子は恥ずかしくなんかない。むしろ、じっと我慢してて辛かったね。頑張ったんだね」
 ギニョール君が顔を上げる。
 その瞳には涙が滲んでいた。

 そしてギニョール君が遠慮がちにしてたので、抱き上げてお屋敷に戻る。
 ギニョール君は顔を真っ赤にして「あ、あう……」と何か言いかけていたけど、無理に話さんでええんやで……。陰キャに『会話しろ!』は鬼畜だからね。
 でも……

 「あとケンカに男も女もないから、次にギニョール君が虐められたら、あいつら処すね♥」

 ……と言ったら「それは駄目です」と真顔で忠告された。

 で、お屋敷に戻ったわけだけど……。

 「何をどうしたら、そうなるんだ!?」

 泥だらけの私とギニョール君の姿に、クラン様が激おこだった。
 クラン様は続ける。

 「ギニョール! 外に出る度に泥だらけになって恥ずかしいとは思わないのか! お前は公爵家の跡取りなんだぞ!」

 ギニョール君、鳥を見に行くたびに虐められてたのか……。
 でも言いたくなさそうに私のスカートを引っ張るギニョール君に、私は頷いた。

 「クラン様! すみません、ギニョール君と護身術の稽古をしてたら泥だらけになっちゃって……! ダブルラリアットで今度、遊ぼうね~ギニョール君っ♥」
 「物騒な遊びを教えるな! そもそもアリエン、君は公爵夫人で……」
 「お話の途中ですが、泥だらけなので、オフロ入ってきま~す! ギニョール君も一緒に入ろっか?」

 その瞬間「「駄目だ!」」と二人が叫ぶ。

 手間が省けていいと思ったんだけど、クラン様もギニョール君も顔を真っ赤にしている。
 じゃあ、ボーイファーストでギニョール君、お先にどうぞ!
 そう言うと、ギニョール君はもじもじした後、私を見上げた。


 「……ありがとうございます、アリエンお母様」