その言葉に沙夜はズキッと胸が傷んだ。
 風習とはいえ、そこに愛はないと言われたら、自分はどうしたらいいのだろうか?

「は……はい」

 このままだと、追い出されてしまう。

「疲れただろう? 小町に世話係を任せるとするから、ゆっくりとするといい。小町、案内してやれ」
「はい、かしこまりました」
「えっ?」

 てっきり追い出されると思ったが、とりあえず受け入れたみたいだ。
 それとも客として、一時的なものだろうか?
 小町はニコニコしながら部屋に案内してくれた。その後も入浴や食事の世話までしてくれた。
 お風呂なんて久しぶりだ。いつもは井戸の水を桶に入れて洗うぐらいだ。食事だって、家族や使用人達の残り物だった。
 こんな豪華な食事は、いつぶりだろうか?
 新しい寝間着に着替え終わると、寝床に案内される。そこには布団が2組。隣に並べられていた。
 そこでハッと気づく。そういえば新婚初夜だ。
 本来なら、結婚した夫婦が初めて身体を触れ合う。子作りとしても大事な日。しかし、自分は生け贄として来ただけ。
 そうなると、初夜どころか、ただのお飾り妻になってしまう。

(……こんな醜い私に、触れたいと思うはずがないわよね)

右目の大きな傷痕に身体も擦り傷だらけの沙夜には、朔夜との関係を築いていけるのは難しいだろう。そんなことは分かっているのに。