沙夜は目尻に涙を溜めながら、ギュッと手を握り締める。
 諦めるしかないのだろうか?
 その時だった。朔夜は、ハハッと大きな声で突然笑ってきた。
 周りは突然笑い出すものだから驚いていた。朔夜は、それを気にすることなく、美也子を払い退けると、沙夜の傍まで行く。
 そして沙夜の肩を抱くと、引き寄せた。

「随分とつまらない余興だな? どれも噓だらけで、この私を騙そうとするとは」
「それは、どう意味ですか!?」

 それに食ってかかったのは美也子だった。しかしハッと我に返り、目をうるうるとさせる。

「酷い……です。噓だなんて」
「事実であろう? 特にお主は酷い。私の耳はどんな遠くの声や音も聞こえる。そして目はどんなに遠くでも見渡せる千里眼を持っておる。自分で切っておいて、それを我が花嫁に罪を着せようとは、実に醜い」

 朔夜は全てお見通しだった。どんなに噓をついたところで、彼の耳と目は誤魔化せない。
 美也子はグッと歯を食いしばるが、それでも食い下がろうとはしなかった。
 バレるわけにはいかなかったからだ。すぐさま涙を流し、
「そんな……お館様まで酷いです。私は、噓なんてついておりません。お姉様が、どんな噓をお館様についたか分かりませんが、事実無言です」と、言い放った。

 それに慌てたのが父親だった。

「そうです。お館様。美也子は誰よりも謙虚で美しく、優しい子です。噓なんてつくわけがありません。おい、沙夜。お前は、お館様にどんなでたらめのことを言ったんだ!?」