今まで、こんなに彼女に反抗したことはあっただろうか?
 言ったところで、また大げさに泣かれる。全て悪いと責められる。
 そう思うと、言い返すことも怖くなっていた。彼女の顔色を伺うだけの日々。
 だが、朔夜に会ってから変わった。彼は沙夜の言葉に耳を傾けてくれた。
 自分に自信をつけさせてくれる唯一の存在。そうしたら言い返すことが出来た。
 しかし、それで諦める美也子ではなかった。ギロッと睨みつけたと思ったら、ニヤッと笑ってくる。

「ふ~ん、だったら無理やり奪うまでね。お姉様、忘れていない? ここには、あなたの味方なんていないのよ」
「……えっ?」

 そうしたら、沙夜を突飛ばした。ドサッと倒れると、お腹に痛みが走る。
 よろよろとしながら立ち上がろうとすると、美也子は何を思ったかカッターナイフを着物の中から取り出した。
 そして、カッターナイフを自分の左腕を近づけると、切りつけた。

「美也子!? 何をしているの??」

 切った部分が血が出ると、美也子は悲鳴のような大声を上げた。

「キャアアアッ~」

 父親を始め、周りは大慌てで駆け寄ってきた。

「何があったんだ!?」
「美也子!? 血が……」

 そうしたら美也子は、後から来た雅和の胸元に飛び込んでいく。

「お姉様に……切り付けられました」
「えっ? 私……そんなことしていない」

 だが、ハッとする。これは崖の時と同じだ。
 これでは、また沙夜が美也子をイジメた事に、されてしまうだろう。違うと言ったところで誰も信じてくれない。