「へぇ~お姉様くせに、上手くお館様をおだてたじゃない? どうやったの? まさか色仕掛けってことはないわよね?」

 まるでバカにしたようにクスクスと笑ってくる。

「……そんなことはしていないわ」
「ふ~ん、どうだか? でも、まさかお姉様が傷が治るなんてね。でも、勘違いしないでちょうだい。お姉様は、あくまでも私の身代わりなんだから」
「そ、それは、どういうこと!?」

 そうしたら美也子は、うっとりとした表情で、
「そんな決まっているじゃない。あんなに美しいお館様だったのなら、お姉様なんかに身代わりをさせなかったわよ。まさに私の夫として相応しいお方だわ。きっとお館様も私と一緒に居ればそう思うはず」と、言ってきた。
「……えっ?」
「だから、返してちょうだい。もともとは、お館様の妻になるのは私だったのだから、何の問題もないでしょう?」

 朔夜の妻と座を返せと言ってくる美也子。あんなに嫌がっていたのに、朔夜の素顔が美しいと分かると惜しくなったようだ。
 沙夜は啞然とする。しかし美也子はクスクスと耳元まで寄ってくる。

「いいでしょう? お姉様。いつものように、私に欲しいものを譲ってよ?」

 ハッとした沙夜は、一歩下がる。

「それはダメよ! 朔夜……お館様は私の旦那様なのだから。誰にも譲る気はないわ」

 はっきりとそう言い返した。今まで諦めてきたが、今回は譲りたくないと心の底から思った。

「何でよ? お姉様は、ただの私の代理の分際でしょ? 生意気に口答えしていないで、さっさと譲りさないよ」
「それだけは嫌。私と朔夜様は、ちゃんと愛し合っています。だから、そんなことはさせない」