物の怪と人間が共存する世界。山付近にある孤金村(こがねむら)には大妖怪・妖狐が住み着いていた。
 大昔の契約でお供え物をする代わりに、外敵の物の怪から村を守られてきた。
 今でもお館様としてひっそりと暮らしているらしい。しかし、限られた者しか、その存在を見たことがない。
 そんな村には1人の少女が居た。彼女の名は、大倉野沙夜(おおくらの さよ)。
 村長であり名家・大倉野の長女。だが、彼女は使用人のような生活をしていた。
 沙夜の母親は幼い頃に亡くなった。政略結婚だったこともあり、父親は母親にあまり関心がなかった。
 その間に愛人を作り、母が亡くなってすぐに後妻として迎えた。2人の間に産まれたのが義妹・大倉野美也子(おおくらの みやこ)。
 美也子は明るく、優秀で要領が良い。その上に村でも評判の美女。両親に溺愛されて育った。
 しかし沙夜は大人しく控えめな性格。父親には長女として厳しく育てられた。
 義母は冷たく彼女を蔑ろにする。美也子は、そんな沙夜を煩わしく思っていた。
 美也子は沙夜のものを欲しがった。亡くなった母の着物だろうと、構わずに。
 大事なものだと断れば、急に自分から派手に倒れて大声で泣きだす始末。義母と父親達が慌てて駆け寄ると、目尻に涙を溜めながら

「お姉様、ごめんなさい。もうお姉様のものを貸してほしいと言いません。だから、突き飛ばしたり、蹴らないで」と、言ってきた。
「……えっ?」

 当然、何を言ってきたのだろうか?
 啞然とする沙夜を構わずに義母は美也子を抱き締めながら怒鳴りつけてくる。

「こんな幼い妹になんてことをしてくれたの!? 蹴り飛ばすなんて」