ショッピングモールを出る頃には、すっかり夕方の風が涼しくなっていた。
 秋の夕暮れは早い。空はオレンジと群青の境目で、どこか切ない。

 駐車場へ向かう道すがら、朱里と嵩の間には──妙な沈黙が続いていた。
 さっきの、あの場面。
 朱里はまだ、彼の反応が気になって仕方がなかった。

「……平田さん、さっきから黙ってますけど」
「別に、何も」
「“何も”って、顔に“何かある”って書いてますよ」

 半分笑いながら言うと、嵩は小さくため息をついた。
 そして、ふと足を止める。

「……さっきの人。元カレとか?」
「え? 違いますって!大学の友達です!」

 朱里は思わず声を上げた。
 しかし嵩はまだ少し納得していないようで、視線を逸らす。

「……そうですか」
「“そうですか”って! なんですか、その反応!」

 朱里の声がわずかに高くなる。
 けれどその怒りは、本気というよりも──胸の奥のもどかしさの裏返しだった。

「……嫉妬してるんですか?」
 もう一度、勇気を出して言ってみた。

 嵩は一瞬だけ目を丸くして、苦笑いを浮かべた。
「そんな子どもみたいなこと、しませんよ」
「ふーん……」

 そう言いながら朱里は歩き出した。
 けれど、彼の歩幅はほんの少し速くなった。
 黙ってついていくうちに、心の奥がチクリと痛む。

 ──嫉妬してくれたら、少しはうれしいのに。
 そんな自分の気持ちに気づいた瞬間、朱里は思わず苦笑した。

 駐車場に着くと、嵩がさりげなく言った。
「……夜、少し冷えるので、これどうぞ」
 そう言って差し出されたのは、嵩のジャケットだった。

「え? いいです、私大丈夫ですから!」
「風邪でも引かれたら困ります。来週、プレゼンありますよね」

 優しい声に、胸がぎゅっとなる。
 さっきまで拗ねてた人とは思えないほど、自然で。
 でも──その優しさが、余計にずるい。

「……平田さんって、ほんとずるい人ですね」
「え?」
「なんでもないです!」

 朱里はそっぽを向いた。
 その頬は、ほんのり赤く染まっていた。