日曜の朝。
 朱里は目覚ましのアラームより早く目を覚ました。普段なら二度寝する時間なのに、今日は妙に胸が高鳴って眠れなかったのだ。

「……ど、どうしよう。服、決めてなかった!」

 クローゼットを開け、スカートやワンピース、パンツスタイルを次々と引っ張り出しては、鏡の前で合わせる。
 どれも「普通」に見えてしまって、納得がいかない。

(これじゃ仕事帰りの延長みたいだし……かといって気合い入れすぎも不自然だし……!)

 試行錯誤の末、落ち着いた色のワンピースにカーディガンを羽織り、シンプルだけど柔らかい雰囲気を選んだ。

 しかし次はメイクで悩む。
「チーク濃すぎ? いや、ナチュラルがいい? でも地味すぎる?」
 鏡の前で眉をしかめ、リップを塗っては拭き取り、また塗り直す。まるで就職面接前の学生のような真剣さだった。

 気づけば時計の針は、もう待ち合わせ30分前。
「えっ!? やばっ、やばいやばいやばい!」

 慌ててバッグをつかみ、玄関へ飛び出す。
 エレベーターを待つ間、朱里は心臓を押さえて深呼吸した。

(落ち着け、私……。ただの買い物。ただの気分転換。そ、そう、デートなんかじゃない……!)

 自分に言い聞かせるものの、頬は火照りっぱなし。
 スマホの画面に表示された「平田嵩」という名前を見るたびに、胸が跳ねた。

 ──今日、どんな顔して会えばいいんだろう。
 そんな不安と期待を抱えたまま、朱里は駅へと急いだ。