休日ランチを終え、朱里と嵩は並んで駅へ向かって歩いていた。
ショッピングモールから流れてきた人々で歩道はにぎやかで、子ども連れの家族や買い物袋を抱えたカップルが行き交っている。

そんな中で、朱里はどこか不機嫌そうに頬をふくらませていた。
嵩がちらっと横顔をうかがうと、視線を合わせてくれない。

「……どうしたんだよ。急に黙り込んで」
「べつに。何でもない」
「何でもない顔じゃないな」

嵩が苦笑まじりに言うと、朱里は立ち止まり、小さく息を吐いた。
それから、ほんの少し拗ねた声で――

「……もし、今日、私以外の子とここに来てたら……ほんとに、大嫌いだから」

唐突な一言に、嵩は目を丸くする。
次の瞬間、こらえきれずに吹き出してしまった。

「お、おい……それは八つ当たりだろ?」
「八つ当たりじゃないもん!」

朱里はむきになって反論し、くるりと背を向けて早足になる。
嵩は慌てて追いかけ、横に並ぶ。

「……なあ。なんでそんなに『大嫌い』にこだわるんだ?」
「こだわってない!」

そう言いながらも、朱里の声は少し震えていた。
彼女はほんの一瞬だけ嵩を見上げ、それから視線を逸らして――

「……ほんとはね、大嫌いって言うたびに……ちょっと、自分に嘘ついてる気がするんだ」

その告白めいた言葉に、嵩は思わず足を止めた。
朱里も立ち止まり、気まずそうにうつむく。
しばし沈黙が流れる。

「朱里……」と嵩が口を開きかけた時、彼女は勢いよく手を振った。

「な、なんでもない! 忘れて! 今のは聞かなかったことにして! 大嫌いっ!」

真っ赤な顔でそう叫ぶと、朱里はそのまま駅の改札口へ駆け出してしまった。
嵩は呆気に取られつつも、彼女の背中を追いながら小さく笑みをこぼす。

「……口癖みたいに言うけど、あれはどう聞いても“本心の逆”だろ」

人混みの中で追いかける朱里の姿は、拗ねているようで、でもどこか嬉しそうでもあった。