「……はあ、やっちゃった……」
朱里は昼休みの給湯室で深いため息をついていた。午前中の失言で、嵩に避けられている気がして仕方がない。

「中谷先輩、大丈夫ですか?」
声をかけてきたのは望月瑠奈だった。小さなペットボトルのお茶を差し出しながら、心配そうに覗き込む。

「うん……ありがと」
受け取りながらも、朱里の声は沈んでいる。

「先輩のこと、ちゃんと見てますから」
瑠奈はにっこりと笑った。その笑顔に、朱里は少し救われる気がした。

けれど──その次の言葉が胸に刺さる。

「平田先輩だって、きっと本気で怒ってないですよ。だってあの人、優しいですし。……私も、そこが好きなんです」

その一言で、朱里の心臓が跳ねた。
フォローのつもりなのか、挑発なのか。どちらとも取れる言い回しだった。

「……そ、そうね。優しいもんね、あの人は」
精一杯の平静を装いながらも、声がわずかに震えていた。

瑠奈はその変化を見逃さず、目を細めて小悪魔のように微笑む。
「先輩も……そう思ってるんですよね?」

──この子、本気だ。
朱里は胸の奥がざわつくのを抑えきれなかった。

外から見れば、先輩後輩の何気ない会話。
けれど実際には、二人の間に目に見えない火花が散っていた。