昼休み、部署の休憩スペース。
朱里は、同僚の女子社員たちとお弁当を囲んでいた。何気ない会話の中で、つい、余計なことを口走ってしまった。
「いやー、うちの平田先輩、ほんっと仕事に厳しいよね。プライベートでも絶対めんどくさいタイプだと思うわ」
言った瞬間、場が凍りついた。
──しまった。今のは冗談のつもりだったのに。
朱里の頭の中で警報が鳴り響く。しかも、よりによって嵩本人がコーヒーを取りに来ていたのを、朱里は気づいていなかった。
「……そうか、俺は“めんどくさいタイプ”なんだな」
低い声が背後から降ってきた。
振り返ると、嵩が無表情のまま紙コップを手に立っている。周囲の女子社員たちは一斉に視線をそらした。
「あ、あのっ、違っ……! 今のは冗談で……!」
「冗談にしては、妙に具体的だったけどな」
嵩は淡々とそう言うと、コーヒーを持ったまま踵を返し、自席へ戻ってしまった。
取り残された朱里は顔から火が出そうなほど赤くなり、同僚たちから「大丈夫?」「やっちゃったね……」と小声で囁かれる。
午後の仕事中、朱里はとにかく気まずさに押し潰されそうだった。書類を渡すタイミングでも嵩と目が合わず、会話もぎこちない。
頭の中では何度もリプレイが流れる。あの場で余計なひと言さえ言わなければ……。
帰り際、思い切って声をかけた。
「あの……今日のこと、本当にごめんなさい。私、悪気はなくて……」
「……そういうところが“めんどくさい”んだろうな」
嵩の返答は冷たくも、どこか自嘲気味で。
朱里は返す言葉を見つけられず、ただ肩を落として頭を下げるしかなかった。
──あぁ、最悪だ。
朱里は、心の中で自分の軽率さを責め続けるのだった。
朱里は、同僚の女子社員たちとお弁当を囲んでいた。何気ない会話の中で、つい、余計なことを口走ってしまった。
「いやー、うちの平田先輩、ほんっと仕事に厳しいよね。プライベートでも絶対めんどくさいタイプだと思うわ」
言った瞬間、場が凍りついた。
──しまった。今のは冗談のつもりだったのに。
朱里の頭の中で警報が鳴り響く。しかも、よりによって嵩本人がコーヒーを取りに来ていたのを、朱里は気づいていなかった。
「……そうか、俺は“めんどくさいタイプ”なんだな」
低い声が背後から降ってきた。
振り返ると、嵩が無表情のまま紙コップを手に立っている。周囲の女子社員たちは一斉に視線をそらした。
「あ、あのっ、違っ……! 今のは冗談で……!」
「冗談にしては、妙に具体的だったけどな」
嵩は淡々とそう言うと、コーヒーを持ったまま踵を返し、自席へ戻ってしまった。
取り残された朱里は顔から火が出そうなほど赤くなり、同僚たちから「大丈夫?」「やっちゃったね……」と小声で囁かれる。
午後の仕事中、朱里はとにかく気まずさに押し潰されそうだった。書類を渡すタイミングでも嵩と目が合わず、会話もぎこちない。
頭の中では何度もリプレイが流れる。あの場で余計なひと言さえ言わなければ……。
帰り際、思い切って声をかけた。
「あの……今日のこと、本当にごめんなさい。私、悪気はなくて……」
「……そういうところが“めんどくさい”んだろうな」
嵩の返答は冷たくも、どこか自嘲気味で。
朱里は返す言葉を見つけられず、ただ肩を落として頭を下げるしかなかった。
──あぁ、最悪だ。
朱里は、心の中で自分の軽率さを責め続けるのだった。



