「先輩~、奇遇ですね!」

襖を開け放ったまま、にこにこと笑う瑠奈。彼女の後ろには友人らしき女性が立っていたが、空気を察したのか「ドリンク取ってくる」とすぐに立ち去っていった。



「望月さんもここに?」

と嵩。

「はいっ!実はこの居酒屋、私のお気に入りなんです~。……でも先輩たちが一緒にいるなんて、なんか……いいですね」



(い、いいって……何が!?)

朱里はグラスを握りしめ、心の中で叫ぶ。



「せっかくですし、ちょっとだけご一緒してもいいですか?」

瑠奈は悪びれる様子もなく座布団を引き寄せ、二人のテーブルに腰を下ろしてしまった。



「えっ……」

驚く朱里。けれど嵩はにこやかに「もちろん」と答えてしまう。



(ちょっと!なんで即答するのよ!)



料理が追加され、三人での食事が始まった。

瑠奈は自然体を装いながら、会話の流れを巧みに操っていく。



「この間のセミナー、本当に勉強になりましたよね、平田先輩!」

「そうだね。望月さんの質問も的確だった」

「えへへ、ありがとうございます!」



二人の笑顔を見ていると、朱里の胸はざわざわして仕方ない。

何も言えず、つい串カツを乱暴にかじってしまう。



「……中谷先輩?」

瑠奈がわざとらしく首を傾げた。

「そんなに強く噛んだら串まで食べちゃいますよ?」



「~~っ!!」

顔が真っ赤になる朱里。



嵩が慌てて「はは……」と笑って場を和ませようとするが、瑠奈はそこで畳みかけた。



「でも、羨ましいな。中谷先輩って、こうやってプライベートでも平田先輩と一緒にいられるんですもん。私も、もっと近くにいたいなぁ」



テーブルの下で、朱里の足が震える。

宣戦布告だ。しかも真正面から。



(……負けない。絶対に負けない!)



けれど、口から出たのは――。



「だ、大嫌いですから! こういう飲み会も……!先輩のことも!」



「えっ」

嵩の笑顔が固まる。瑠奈は口元を押さえてクスクス笑う。



朱里は真っ赤な顔のまま、グラスの水を一気に飲み干した。



(ああもう!なんで私ってこうなのよ!!)



居酒屋の空気は、熱気と気まずさが入り混じっていた。