大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

送信してから、ほんの数秒。

それだけで、嵩は自分がどれだけその返事を気にしているかを思い知らされた。

スマートフォンを伏せたまま、指先だけが落ち着かない。

机の上で、無意識にペンを転がす。

(返事は、すぐじゃなくていい)

そう思って送ったはずなのに、
「すぐじゃなくていい」という言葉は、
“いつでもいい”と同じではないことを、今さら理解する。

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

嵩は立ち上がり、給湯室へ向かった。

コーヒーを淹れる必要なんて、もうないのに。

そこで、望月瑠奈と鉢合わせる。

「あ、平田さん」

いつも通りの声。

いつも通りの笑顔。

でも、今日は少しだけ、視線が鋭かった。

「今日は……なんか、静かですね」

「そうかな」

「はい。静かというか……考え事してる人の背中です」

図星すぎて、笑うしかなかった。

「よく見てるね」

「後輩ですから」

冗談めかして言いながら、瑠奈はマグカップを持つ手を止める。

「……中谷先輩と、何かありました?」

直球だった。

でも、責める調子ではない。

嵩は一瞬だけ迷ってから、曖昧に答える。

「ちゃんと話そうとしてるところ」

「ふうん」

瑠奈はそれ以上踏み込まなかった。

代わりに、ぽつりと言う。

「ちゃんと話すって、怖いですよね。でも……話さないほうが、あとでずっと残ります」

その言葉に、嵩は何も返せなかった。

瑠奈は軽く会釈して、先に給湯室を出ていく。

一人残された嵩は、深く息を吐いた。

(……背中、押されすぎだろ)

美鈴。
朱里。
瑠奈。

誰も、答えを押しつけてこない。

ただ、“選べ”と言われているだけだ。

デスクに戻る途中、スマートフォンが震えた。

一瞬、心臓が跳ねる。

でもそれは、業務連絡だった。

期待してしまった自分に、苦笑する。

(返事は、まだだ)

それでいい。

待つと決めたのは、自分だ。

午後の仕事をこなしながらも、
嵩の意識はどこか、帰り道のことを先取りしていた。

どこで話すか。

どこまで話すか。

何を、言って、何を言わないか。

──言われなかった言葉の、その先。

そこには、

“自分がどうするか”しか残っていない。

定時が近づく。

窓の外の光が、少しずつ傾いていく。

嵩はスマートフォンを、もう一度だけ確認した。

まだ、既読はついていない。

それでも、胸の奥は不思議と静かだった。

(来るかどうかじゃない)
(来たとき、逃げないって決めただけだ)

嵩はゆっくりと立ち上がり、帰り支度を始めた。

今日という日は、
“答えをもらう日”ではなく、
“答えを渡す準備をする日”なのだから。