大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

目が覚めた瞬間、
朱里は「今日だ」と分かった。

目覚ましが鳴る前だった。

頭より先に、体が起きていた。

(逃げないって、決めた日)

カーテン越しの朝の光が、少しだけ眩しい。

いつもより早く起きたはずなのに、時間はゆっくり流れている。

キッチンでお湯を沸かす。

カップにコーヒーを注ぎながら、手元がわずかに震えた。

(……緊張してる)

当たり前だ。

昨日、ノートに書いた言葉を思い出す。

好き。

怖いけど、逃げない。

転勤は、一緒に考えたい。

一緒にいたい。

たったそれだけなのに、

胸の奥が重い。

シャワーを浴び、髪を乾かす。

服を選ぶ。

気合いを入れすぎない。

でも、だらしなくもしない。

結局、いつもの服に落ち着いた。

(これでいい)

鏡の前に立つ。

「……大丈夫」

声に出すと、少しだけ現実になる。

出勤。

電車の中、スマホを見る。

嵩からのメッセージは来ていない。

(今日は、言葉を準備する日じゃない)
(受け取る日だ)

会社では、いつも通り仕事をした。

いや、正確には“しようとした”。

資料の文字が頭に入らない。

時計ばかり見てしまう。

昼休み。

美鈴と目が合い、何も言わずに頷かれた。

(……見透かされてる)

でも、その視線は

「行ってきなさい」に見えた。

定時。

席を立つ時、足が少しだけ重い。

(帰るんじゃない)
(行く)

会社を出ると、夕方の空が広がっていた。

駅へ向かう道。

昨日と同じ。

でも、意味が違う。

バッグの中、ノートの存在を確かめる。

(言葉は、ここにある)

立ち止まり、深呼吸。

逃げ道は作らなかった。

約束の場所へ、ちゃんと向かう。

「……行こう」

朱里は、前を向いて歩き出した。

“話す日”は、
もう始まっている。