大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

会社を出ると、夕方の風が肌に触れた。

金曜日より少し冷たいのに、心臓はあの時より熱い。

どちらからともなく並んで歩き出す。

ビルの窓に映る二人の姿が、なんだか“当事者感”を増幅させる。

「……あの」

朱里が切り出すより先に、嵩が口を開いた。

「金曜日、“好き”って言ったこと。
 あれは、勢いじゃなかったから。ちゃんと伝えるつもりで言った」

その言い方が、ずるいと思う。

曖昧じゃなくて、でも決定的にも聞こえて。

胸の奥が、期待で痛くなる。

「……嬉しかったです。すごく。
 でもまだ、怖いのも本当で」

正直な言葉だった。強さじゃなくて弱さの方が

素直に出た。

嵩は立ち止まり、朱里の方を向いた。

街灯に照らされて、表情が少しだけ影になる。

「怖いならいいよ。無理に追いつかなくていい。
 ……俺のこと、嫌いになって逃げようとしてるわけじゃないなら」

心臓が跳ねた。

その言葉が核心だった。

朱里は小さく首を振る。

「嫌いだったら、とっくに逃げてます。
 “嫌いになれたら楽なのに”って思うくらい……好きだから困ってるだけで」

自分で口にして、顔が熱くなる。

まるで言葉が先に走って、気持ちが追いつけていない。

嵩の目が、やわらかく揺れた。

「じゃあ……困らせていい?」

「えっ、ちょ、困らせる前提なんですか!?」

「うん。だって俺、中谷さんのこと意識してるのに、
 普通の距離ではいられそうにない」

言葉が近い。距離も少しだけ近い。

ほんの数センチ。でも、世界が変わりそうな差。

その時──

ピロリン♪

朱里のスマホが鳴った。

ディスプレイには瑠奈からのメッセージ。

《先輩。今日、帰ってるの見ました。
 負ける気はないので、言っときます。
 ちゃんと進んでください。じゃないと、追い抜きます。》

心臓がまた跳ねた。

追い抜かれる、という言葉が刺さる。

嵩が朱里の表情を見て、静かに問う。

「……瑠奈さん?」

「はい。でも……大丈夫です。
 もう“逃げる理由”にはしません」

答えながら、自分の覚悟を再確認する。

怖いけど、それでも進みたいと思った。

嵩が息を吸う。

告白の続きを言うように、口を開いた。

「じゃあ……ちゃんと付き合おう、とは今は言わない。
 急がない。でも、曖昧にもしない。
 中谷さんの隣にいたいってことは、形にしていく」

朱里は目を伏せて、そして顔を上げた。

「……私も、隣にいたいです。
 怖くても、ちゃんと前を見ていたいから」

それが、今の二人の答えだった。

嵩が微笑む。

「じゃあ今日はここまで。次の一歩は、またちゃんと話そう」

「……はい。逃げずに」

二人は少し距離を保ったまま、でも前より近い歩幅で歩き出した。