土曜日の午後。
朱里はベッドの上で寝転びながら、スマホを握りしめていた。
──今日は嵩と瑠奈が「セミナー」に行く日。
「……セミナーって、デートの言い換えじゃないの?」
独り言はため息と一緒に空気へ溶ける。
何度もSNSを更新しては、ふたりの写真が流れてこないかチェックする自分が情けない。
「大嫌い……本当に大嫌い……!」
自分でも意味がわからない「大嫌い」をベッドのシーツに向かって呟いた。
(※カウントすると九回目)
翌週。
昼休み、朱里はいつものように会社近くの公園へ。
しかし今日は、ひとりじゃなかった。
「中谷先輩~!ここ座っていいですか?」
瑠奈が両手にパンを抱えて、無邪気にやってきた。
断る間もなく隣に腰を下ろし、ぱくりと齧る。
「この前のセミナー、平田先輩が隣にいてくださって、本当に心強かったんです!」
瑠奈の声は、天真爛漫そのもの。
だが朱里には、心臓を握りつぶされるように響いた。
「ふ、ふーん……よかったじゃない」
「はい! それで……あの、実は──」
瑠奈はほんのり顔を赤くして、声を落とした。
「私、平田先輩のこと……好きなんです」
パンを握る朱里の指先に力が入り、袋が「ぐしゃっ」と音を立てる。
「す、好き……って?」
「はい! だって、優しいし、仕事もすごくできるし。私にとって、理想の人なんです」
瑠奈の告白は、本人が悪気なくキラキラした笑顔で放つから、余計に刺さる。
「……そう、なの」
朱里は努めて平然と装った。
けれど、その横顔は自分でもわかるほど強張っていた。
「だから、ライバルですからね、先輩!」
瑠奈がにっこりと宣言する。
その無邪気な宣戦布告に、朱里はサンドイッチを喉に詰まらせてむせた。
「ゴホッ、ゴホッ! な、なに言って……っ!」
「だって、中谷先輩も平田先輩のこと、好きなんですよね?」
「な、ななな……っ! だ、だいっ……」
口から条件反射的に出かかった「大嫌い!」を、朱里は慌てて飲み込んだ。
しかし、言葉を失った沈黙は、逆に図星を突かれた証拠みたいに見える。
瑠奈は満足そうに微笑んだ。
「ふふっ、やっぱり。負けませんから」
朱里は顔を真っ赤にしながら、心の中で叫んだ。
──本当に、大嫌い!
(もちろん、ライバルの瑠奈に向けて)
でもその叫びは、やっぱり嵩への想いとごちゃ混ぜになって、どうしようもなく胸をかき乱していくのだった。
朱里はベッドの上で寝転びながら、スマホを握りしめていた。
──今日は嵩と瑠奈が「セミナー」に行く日。
「……セミナーって、デートの言い換えじゃないの?」
独り言はため息と一緒に空気へ溶ける。
何度もSNSを更新しては、ふたりの写真が流れてこないかチェックする自分が情けない。
「大嫌い……本当に大嫌い……!」
自分でも意味がわからない「大嫌い」をベッドのシーツに向かって呟いた。
(※カウントすると九回目)
翌週。
昼休み、朱里はいつものように会社近くの公園へ。
しかし今日は、ひとりじゃなかった。
「中谷先輩~!ここ座っていいですか?」
瑠奈が両手にパンを抱えて、無邪気にやってきた。
断る間もなく隣に腰を下ろし、ぱくりと齧る。
「この前のセミナー、平田先輩が隣にいてくださって、本当に心強かったんです!」
瑠奈の声は、天真爛漫そのもの。
だが朱里には、心臓を握りつぶされるように響いた。
「ふ、ふーん……よかったじゃない」
「はい! それで……あの、実は──」
瑠奈はほんのり顔を赤くして、声を落とした。
「私、平田先輩のこと……好きなんです」
パンを握る朱里の指先に力が入り、袋が「ぐしゃっ」と音を立てる。
「す、好き……って?」
「はい! だって、優しいし、仕事もすごくできるし。私にとって、理想の人なんです」
瑠奈の告白は、本人が悪気なくキラキラした笑顔で放つから、余計に刺さる。
「……そう、なの」
朱里は努めて平然と装った。
けれど、その横顔は自分でもわかるほど強張っていた。
「だから、ライバルですからね、先輩!」
瑠奈がにっこりと宣言する。
その無邪気な宣戦布告に、朱里はサンドイッチを喉に詰まらせてむせた。
「ゴホッ、ゴホッ! な、なに言って……っ!」
「だって、中谷先輩も平田先輩のこと、好きなんですよね?」
「な、ななな……っ! だ、だいっ……」
口から条件反射的に出かかった「大嫌い!」を、朱里は慌てて飲み込んだ。
しかし、言葉を失った沈黙は、逆に図星を突かれた証拠みたいに見える。
瑠奈は満足そうに微笑んだ。
「ふふっ、やっぱり。負けませんから」
朱里は顔を真っ赤にしながら、心の中で叫んだ。
──本当に、大嫌い!
(もちろん、ライバルの瑠奈に向けて)
でもその叫びは、やっぱり嵩への想いとごちゃ混ぜになって、どうしようもなく胸をかき乱していくのだった。



