「……あれ?中谷さん、望月さん、それに……平田さんも?」

 角を曲がったところに、
 仕事帰りの 田中美鈴 が立っていた。

(……なんでこうも続けざまに……!?)

 美鈴は事情を察したのか、にたりと口角を上げた。

「ほぉ……なるほどね?」

「な、なるほどじゃないです!!」

 朱里は両手をぶんぶん振って否定するが──
 もはや誰も信じていない顔だった。

(どうして……ほんとにどうして……こうなるの……?)

 朱里の心の叫びは、秋の夜空に吸い込まれていった。

瑠奈と美鈴が合流してしまった帰り道。
 雨上がりの夜気はひんやりしているのに、朱里の顔は火照りっぱなしだった。

(な、なんでこうなるの……!?せっかく二人で歩くはずだったのに……!)

 歩く列は、
 前に嵩と朱里、
 後ろに瑠奈と美鈴という奇妙な隊列。

 その後ろ組が──やかましい。

「で〜?お二人はいつからの仲なんですかぁ?」
「いやいや、瑠奈ちゃん、圧がすごいわよ。逃げ道ふさぐタイプじゃん」

「逃がす気ないんで」
「こわっ!?笑」

 美鈴のツッコミが軽快に入る。

(美鈴……助けて……!)

 朱里が振り返ると、美鈴は片目だけウインクした。
 それは、
《任せなさい》
という、いつもの合図。

「望月ちゃん、今日ってさ、買い物して帰るって言ってなかった?」
「え?……え、まぁ……して帰りますけど……?」

「じゃあさ、ほら、あそこの100均寄らない?新商品入ってたんだって!」

「え、でも……」

「行こ。ほらほら、行こ行こ!」

 美鈴は瑠奈の腕をがっちりつかむと、
“物理的に” 引きずっていった。

「ちょ、ちょっと待っ……!平田さんたちは……!」

「大丈夫〜、二人は別方向でしょ? はい解散〜!」

 ぱんっ、と美鈴が手を叩く。

 瑠奈が振り返りながら叫ぶ。

「中谷さん!あとで聞きますからね!!」

 その叫びが夜道に響いて──
 ふたりは角を曲がって消えていった。

 残されたのは、
 嵩と朱里だけ。

「……助けられましたね、中谷さん」
「……助かりました……ほんとに……」

 朱里は肩の力を抜き、ちいさく息を吐く。

 嵩は少しだけ笑って、朱里を見た。
 その穏やかな目に照れが込み上げてくる。

「じゃあ……改めて行きますか。少しだけ、歩く約束でしたし」
「……はい。お願いします」

 さっきまでの騒がしさが嘘みたいに、
 ふたりの間に静かな風が吹いた。

 雨上がりの街を、
 ようやく──
二人で歩き出す。