「じゃあ、行きましょう」

 嵩さんがゆっくり歩き出す。その一歩一歩に合わせるように、私も横に並んだ。雨上がりの道路は街灯をぼんやり映していて、なんとなくいい雰囲気だ──なんて思った瞬間。

「おっ、平田さんと中谷先輩だ!」

 背後から明るい声。
 振り向くと、コンビニの袋をぶら下げた瑠奈が立っていた。

「あっ、望月さん──」

 と言いかけた途端。

「ちょっと待ってください〜〜っ!」

 瑠奈は、私たちのもとへ小走りで駆け寄ってきた。コンビニ袋の中でお惣菜パックがカタカタ揺れている。

 な、なんか追いかけてきた感じになってる……!

「よかった、追いついたぁ……! え、えへへ。偶然ですね! お二人とも帰りですか?」

「う、うん。まあ……そうだね」
 嵩さんは、やや困ったように笑う。

 よし、私の心臓、落ち着け。
 こういうときに限って、脈が爆速で暴れだすんだよね。

「あの、もしよければ……一緒に帰ってもいいですか?」
 瑠奈は期待に満ちた笑顔を向けてきた。

 で、出た……その顔……断れないやつ……!

「もちろん。平田さん、いいですよね?」
 瑠奈が当然のように言う。

「う、うん。大丈夫だよ」

 嵩さんがそう言った瞬間、私の“少しだけ特別だった帰り道”は、ふわっと霧散した。

 でも。

「中谷先輩、嬉しそうですね?」
 瑠奈がにやりと笑ってのぞき込んでくる。

「え、ぜ、全然!? むしろ大嫌いだし!? こういう気まずいやつ!!」

「いや、俺、何もしてないけど……」
 嵩さんが苦笑する。

 しまった、反射的に“口癖”が出た。

 ──大嫌い。
 本当はその正反対なのに、目の前の人に向かって言っちゃう私。

 またやっちゃった、と胸がきゅっとなる。

 なのに嵩さんは、どこか優しい目で私を見て、小さくつぶやいた。

「……中谷さんの“それ”、もう慣れてきたな」

 え?
 慣れてきた?
 慣れて……きた……?

 ちょ、ちょっと待って。
 それって、どういうこと──!?

 私の心のざわめきと、瑠奈の足音が並んで響く中、三人で夜道を歩き始めた。