「中谷先輩って、平田先輩のこと……どう思ってるんですか?」

ランチの帰り道、コンビニ袋を提げたまま隣を歩く瑠奈が、ふいに切り出した。
あまりに直球すぎる質問に、朱里は思わず足を止めた。

「は? な、なに急に」

「だって気になるんです。先輩って、平田先輩と仲良いですよね。つい、この間も営業資料のことで呼び出されてましたし」

「そ、それは仕事だからでしょ」

朱里は声を荒げながらも、内心は動揺していた。瑠奈の目はまっすぐで、無邪気というよりは探るような光を帯びている。

「ふーん……」
瑠奈は唇に指を当てて、わざとらしく考え込む仕草をした。

「私、平田先輩のこと、すごく尊敬してるんです。憧れっていうか……好きっていうか」

「っ……!」

その一言に、朱里の心臓が跳ね上がった。予想はしていた。していたけど、実際に口にされると破壊力が違う。

「だから、中谷先輩がどう思ってるのか知りたくて」
瑠奈はにこっと笑う。その笑顔が挑発のように見えて、朱里は喉がカラカラになった。

「べ、別に……普通の先輩よ。ただの、ね」

「ほんとですか?」
「……ほんとよ!」

否定する声が裏返ってしまった。瑠奈はにやりと笑みを浮かべ、まるでとどめを刺すように言った。

「じゃあ、遠慮なく私、アプローチしちゃいますね」

朱里は思わず立ち止まり、瑠奈を睨みつける。

「な、何それ……宣戦布告ってこと?」

「えへへ、そうかもです。だって恋愛って自由競争じゃないですか?」

──この子、見た目は天使なのに中身は小悪魔じゃないの!?

朱里はぐっと拳を握りしめ、悔しさを必死で飲み込む。
本当は今すぐにでも「嵩先輩は渡さない!」と叫びたい。けれど、そんなこと言えるわけがない。

だから代わりに、つい口から出てしまった。

「……ああもう! 平田先輩なんて、大嫌い!!」

「えっ? えっ!? いきなりどうしたんですか先輩!」

瑠奈が目を丸くする。
朱里は耳まで真っ赤になりながら、慌てて取り繕った。

「ち、違うの! その……あの人、誰にでも優しいから。そういうところが大嫌いって意味で……!」

「なるほど……そういう“大嫌い”ですか」
瑠奈は含みのある笑みを浮かべ、何も言わずに歩き出した。

朱里はひとり取り残されて、胸の奥をぎゅっと掴まれるような感覚に襲われる。

──何やってんの、私。
ライバル相手に「大嫌い」なんて言ってどうするの。

それはまるで、自分の恋心を逆に証明してしまったみたいだった。