●第2章 据え膳と春の足音
浜ちゃんの仲介で一緒に飲むことになった3人は、簡単な自己紹介のほか、たわいもない話をして楽しい時間を過ごした。灰皿にはバージニアスリムライトのフィルターが山になっていた。終電もなくなり、いい感じに酔っぱらった3人は会計をしてお店を後にした。
たまたま、市ヶ谷駐屯地の近所の曙橋のワンルームアパートに住んでいた梨乃は陸と帰る方向が同じということで、二人でタクシーを拾い帰路に就いた。
「靖国通りから合羽坂を上がって左に行って下さい」
部隊の先輩がいつも言っているセリフで運転手に行き先を伝える陸。
タクシーが曙橋付近に差し掛かると梨乃が
「あ、運転手さん、私はその辺で・・・」合羽坂の手前で左によって停車するタクシー。
深夜料金のメーターが¥1580なのを見て、
「足りる?」と言って千円札を渡そうとする梨乃を制止して、
「いいよ、いいよ、払っとくから。今日は楽しかった。また。」と軽く手を振る陸。
「ありがとう・・またね。お休み。」と手を振り返す梨乃。
「運転手さん、合羽坂上がって左に行ったら、機動隊の前あたりで・・・。」
梨乃を降ろしたタクシーは外苑東通りを少し北上した。
「あ、その辺で・・・」陸が運転手に伝えると、タクシーは信号の手前で停車した。
「1800円になります。」
陸は運転手に千円札を2枚手渡し
「お釣りはいいです」と言ってタクシーを降りた。
歩行者用の信号はまだ赤だったが、深夜、ほとんど走っている車もいなかったので、陸は足早に横断歩道を渡った。自衛隊薬王寺門の警衛に外出証の入った身分証を提示して駐屯地の中に入り、営内隊舎に向かう陸の足取りは軽かった。思わずスキップをしてしまうほどに。
自衛官というのは女性に対するホワイトバランスが狂った人種ともいえる。新隊員教育隊では半年間の軟禁状態が続き、部隊配属後も指定場所に居住する義務を強いられ、職場での出会いはほとんどない。職場で絡みのある女性と言えば、昼休みになると時々営業に来る生命保険勧誘のお姉さん。部隊配属後の新兵は保険外交員にとっては格好のカモだった。露出度の高い服装で、少し色目を使えば『もしかして?』と勝手に勘違いをして契約してしまう隊員も少なくない。契約書の印鑑さえ取得してしまえば疎遠になる保険外交員の洗礼を受けた隊員は、世の中の世知辛さと、自分の未熟さを噛みしめる。
若い雄は雌との出会いを求めて、歌舞伎町に繰り出す。ナンパで撃沈され、風俗に走る隊員も大勢いる。初めのころは出会いを求めて歌舞伎町に繰り出し、仲間と一緒に色々な店に飲みに行っていた陸だったが、2年余りの紆余曲折の末、自分の性格に合っている店に辿り着いた。それが同じ部隊の先輩が連れて来てくれたBarパスポートだった。
女性との出会いが少ない環境の中にいた陸にとって、思いがけずバーで女性と知り合い、仲良くなれたことは幸運なことといえる。
陸の痛恨のミスは梨乃の連絡先をきいていなかったこと。連絡手段がないということは、次にいつ会えるのか分からないということだった。陸はせっかく掴みかけたチャンスを逃すまいと、セミの声が鳴り響く中、足繁くパスポートに通った。
出会いから一週間、毎日店に通ったが、梨乃との再会は果たせずにいた。
次第に店に通うペースは落ち、おおむね2か月後には元の週一ペースに戻っていた。
その日もエレベーターから一番近い、いつものカウンター席でバーボンの水割りを傾けていた陸。
いい加減あきらめて帰ろうとしたその時、エレベーターの扉が開く。
振り返ってエレベーターの方を見る陸。
梨乃が現れる。
「あ!りっくん!・・久しぶり!」
直ぐにカウンター席の陸を見付けた梨乃は声をかけた。
「横座っていい?」
懐っこく聞いた梨乃は、陸が答える前に隣の席に座っていた。
「まだ、いいって言ってないけど・・」と答えた陸は思わずニヤけていた。
やっと再会を果たした二人は、休みの前の日ということもあり、閉店まで飲み明かした。
ハーパーのキープタグが5枚目になっていた。
終電はとうに無くなっていて、前回と同じくタクシーで一緒に帰ろうとした二人だったが、週末ということもあり、いくら待てどもタクシーは捕まらなかった。
暦の上では秋といえども9月中旬ではまだ残暑は厳しく、蜩(ひぐらし)が最後の力を振り絞って鳴いている。
靖国通りをまっすぐ行けば市ヶ谷駐屯地に行けることは知っていた。
頑張れば歩けない距離でもなかったので、仕方なく歩いて帰ろうか?というノリになり、歩き始めた二人だったが、程無くして小雨が降り出した。
酔っぱらいに雨の夜間行軍はハードルが高く、
「雨も降ってきちゃったし、風邪ひくといけないから、やっぱりその辺で休んでこうか?」という陸の提案に『雨という言い訳』の出来た梨乃も、徒歩で帰るのをあきらめ、二人は通りから一本入った裏道にあるホテルで休むことにした。
陸とホテルに入ることにした梨乃は、当然そうなることを覚悟の上だった。
「あー酔っぱらったー!」ベッドに倒れ込む陸。
「先にシャワー浴びてきていい?」と少し頬を赤らめた梨乃が聞くと、
「どうぞー」と布団に突っ伏したまま陸が答える。
お酒が入った状態で少し歩いたこともあり、梨乃は兎に角早く、汗ばんだ身体を洗い流したかった。陸に匂いを嗅がれる前に。
先にシャワーを浴び終えると、備え付けのバスローブに身を包み、早まる鼓動を抑えつけるように、ゆっくりベッドに近寄る梨乃。
「りっくん?」
寝息をたてていて返事をしない陸。
「ねえ、りっくん!シャワー浴びてきていいよ・・・」
返事がない。
もしかしたら今夜、姫事が起きるかも?と妄想していた梨乃の期待に反して、陸が目を覚ますことはなかった。
飲みつかれた梨乃も、ベッドの上で横に並んで眠ってしまった。
『据え膳食わぬは男の恥』
舞い上がって飲みすぎた陸は泥酔の為、絶好のチャンスを不意にすることになったのだが、それが却って梨乃の信頼を獲得することになる。
・・・この人は身体が目当てじゃないんだ・・・
梨乃は衝撃だった。ホテル以外でも求めてくる男もいる中、一緒にホテルに入った男性で手を出してこなかった男は陸が初めてだった。
力尽きて眠りこけていた二人。フロントからの電話で目を覚ます。
「チェックアウトの時間ですが延長されますか?」
「う・・・すいません、出ます」
二日酔いの陸は頭痛をこらえながら吐き出すように言うと、受話器を置いて、テーブルの灰皿の横に置いてあったルームキーを慌てて手に取った。
「帰ろうか・・・」と言って、部屋を出た二人はフロントに行き精算をした。
梨乃は半分出すつもりでいたが、陸は何も言わずに独りで会計を済ませた。
「半分出すよ」とルイ・ヴィトンの財布を取りだした梨乃に
「いい女は男に出させるもんだよ」と言って陸は一切受け取らなかった。
梨乃は心の中でつぶやいた『この人だ・・・』
太陽は高い位置まで登っており、雨は止んでいた。
運よくタクシーを捕まえた二人は靖国通りを市ヶ谷方面に向かった。
セミの声がうるさく響いていた。
曙橋付近でタクシーを停めてもらった梨乃は
通常料金のメーターが¥880なのを見て、
「お釣りはいいです」
千円札を出して運転手に渡すと、陸の腕を引っ張って強引に降ろした。
「お茶でも出すからウチ来てよ!休みでしょ?」
まんざらでもなかった陸は特に予定があるわけでもなく、誘われるままに梨乃のアパートに向かった。
アパートのドアの前に来ると、梨乃は一瞬躊躇した。
「ごめん、ちょっとだけ待ってて・・・」
陸を外で待たせて、独りで部屋に入ると大慌てで部屋を整えだした。
どこかでミンミンゼミが鳴いている。
急ごしらえで足の踏み場を作ると、玄関に戻りドアを開けた。
「ごめん、お待たせ。散らかってるけど気にしないで!」
「おじゃまします」
・・・女の子の部屋・・・そう言えば初めてだ・・・
前に使われたのがいつか分からないキッチンの横を抜けてすぐの扉を開けると、マットレスの上にさっき畳んだであろう布団が置かれていた。
「何か飲み物持ってくるから適当に座ってて!」と言うと梨乃は、キッチンにある冷蔵庫に飲み物を取りに行った。複数の人間が出入りしていた過去のある梨乃の冷蔵庫には、好みの違ういろんな種類の飲み物が並んでいた。
慌ててかたずけたのだろう、消臭剤の人工的な匂いがたばこの臭いを隠す様に漂っていた。
初めて来た陸の好みが分からない梨乃は、独りの人間のチョイスではなさそうな、雑多な飲み物をトレーに載せて持ってきた。
「ウエルカムドリンクはいかがですか?」と軽くふざけてみたが、陸には全くウケなかった。
素に戻り
「こんなのしかなくてゴメン、どれがいい?」と陸に聞いた。
まだ二日酔いの陸は、苦渋の選択で
「サイダー・・・かな」と言ってよく冷えたペットボトルを受け取った。
身体はスポーツドリンクを欲していたが、一番近そうなのがギリギリサイダーだった。
「あ~冷たい飲み物が五臓六腑に浸みるぜ~」
おどけることでかろうじて梨乃に気を遣った陸だった。
・・・好みの一貫性を感じない飲み物たちは梨乃の好みなんだろうか?
一瞬疑問に思った陸だったが、二日酔いの倦怠感と頭痛のせいでそれ以上考えることはしなかった。
浜ちゃんの仲介で一緒に飲むことになった3人は、簡単な自己紹介のほか、たわいもない話をして楽しい時間を過ごした。灰皿にはバージニアスリムライトのフィルターが山になっていた。終電もなくなり、いい感じに酔っぱらった3人は会計をしてお店を後にした。
たまたま、市ヶ谷駐屯地の近所の曙橋のワンルームアパートに住んでいた梨乃は陸と帰る方向が同じということで、二人でタクシーを拾い帰路に就いた。
「靖国通りから合羽坂を上がって左に行って下さい」
部隊の先輩がいつも言っているセリフで運転手に行き先を伝える陸。
タクシーが曙橋付近に差し掛かると梨乃が
「あ、運転手さん、私はその辺で・・・」合羽坂の手前で左によって停車するタクシー。
深夜料金のメーターが¥1580なのを見て、
「足りる?」と言って千円札を渡そうとする梨乃を制止して、
「いいよ、いいよ、払っとくから。今日は楽しかった。また。」と軽く手を振る陸。
「ありがとう・・またね。お休み。」と手を振り返す梨乃。
「運転手さん、合羽坂上がって左に行ったら、機動隊の前あたりで・・・。」
梨乃を降ろしたタクシーは外苑東通りを少し北上した。
「あ、その辺で・・・」陸が運転手に伝えると、タクシーは信号の手前で停車した。
「1800円になります。」
陸は運転手に千円札を2枚手渡し
「お釣りはいいです」と言ってタクシーを降りた。
歩行者用の信号はまだ赤だったが、深夜、ほとんど走っている車もいなかったので、陸は足早に横断歩道を渡った。自衛隊薬王寺門の警衛に外出証の入った身分証を提示して駐屯地の中に入り、営内隊舎に向かう陸の足取りは軽かった。思わずスキップをしてしまうほどに。
自衛官というのは女性に対するホワイトバランスが狂った人種ともいえる。新隊員教育隊では半年間の軟禁状態が続き、部隊配属後も指定場所に居住する義務を強いられ、職場での出会いはほとんどない。職場で絡みのある女性と言えば、昼休みになると時々営業に来る生命保険勧誘のお姉さん。部隊配属後の新兵は保険外交員にとっては格好のカモだった。露出度の高い服装で、少し色目を使えば『もしかして?』と勝手に勘違いをして契約してしまう隊員も少なくない。契約書の印鑑さえ取得してしまえば疎遠になる保険外交員の洗礼を受けた隊員は、世の中の世知辛さと、自分の未熟さを噛みしめる。
若い雄は雌との出会いを求めて、歌舞伎町に繰り出す。ナンパで撃沈され、風俗に走る隊員も大勢いる。初めのころは出会いを求めて歌舞伎町に繰り出し、仲間と一緒に色々な店に飲みに行っていた陸だったが、2年余りの紆余曲折の末、自分の性格に合っている店に辿り着いた。それが同じ部隊の先輩が連れて来てくれたBarパスポートだった。
女性との出会いが少ない環境の中にいた陸にとって、思いがけずバーで女性と知り合い、仲良くなれたことは幸運なことといえる。
陸の痛恨のミスは梨乃の連絡先をきいていなかったこと。連絡手段がないということは、次にいつ会えるのか分からないということだった。陸はせっかく掴みかけたチャンスを逃すまいと、セミの声が鳴り響く中、足繁くパスポートに通った。
出会いから一週間、毎日店に通ったが、梨乃との再会は果たせずにいた。
次第に店に通うペースは落ち、おおむね2か月後には元の週一ペースに戻っていた。
その日もエレベーターから一番近い、いつものカウンター席でバーボンの水割りを傾けていた陸。
いい加減あきらめて帰ろうとしたその時、エレベーターの扉が開く。
振り返ってエレベーターの方を見る陸。
梨乃が現れる。
「あ!りっくん!・・久しぶり!」
直ぐにカウンター席の陸を見付けた梨乃は声をかけた。
「横座っていい?」
懐っこく聞いた梨乃は、陸が答える前に隣の席に座っていた。
「まだ、いいって言ってないけど・・」と答えた陸は思わずニヤけていた。
やっと再会を果たした二人は、休みの前の日ということもあり、閉店まで飲み明かした。
ハーパーのキープタグが5枚目になっていた。
終電はとうに無くなっていて、前回と同じくタクシーで一緒に帰ろうとした二人だったが、週末ということもあり、いくら待てどもタクシーは捕まらなかった。
暦の上では秋といえども9月中旬ではまだ残暑は厳しく、蜩(ひぐらし)が最後の力を振り絞って鳴いている。
靖国通りをまっすぐ行けば市ヶ谷駐屯地に行けることは知っていた。
頑張れば歩けない距離でもなかったので、仕方なく歩いて帰ろうか?というノリになり、歩き始めた二人だったが、程無くして小雨が降り出した。
酔っぱらいに雨の夜間行軍はハードルが高く、
「雨も降ってきちゃったし、風邪ひくといけないから、やっぱりその辺で休んでこうか?」という陸の提案に『雨という言い訳』の出来た梨乃も、徒歩で帰るのをあきらめ、二人は通りから一本入った裏道にあるホテルで休むことにした。
陸とホテルに入ることにした梨乃は、当然そうなることを覚悟の上だった。
「あー酔っぱらったー!」ベッドに倒れ込む陸。
「先にシャワー浴びてきていい?」と少し頬を赤らめた梨乃が聞くと、
「どうぞー」と布団に突っ伏したまま陸が答える。
お酒が入った状態で少し歩いたこともあり、梨乃は兎に角早く、汗ばんだ身体を洗い流したかった。陸に匂いを嗅がれる前に。
先にシャワーを浴び終えると、備え付けのバスローブに身を包み、早まる鼓動を抑えつけるように、ゆっくりベッドに近寄る梨乃。
「りっくん?」
寝息をたてていて返事をしない陸。
「ねえ、りっくん!シャワー浴びてきていいよ・・・」
返事がない。
もしかしたら今夜、姫事が起きるかも?と妄想していた梨乃の期待に反して、陸が目を覚ますことはなかった。
飲みつかれた梨乃も、ベッドの上で横に並んで眠ってしまった。
『据え膳食わぬは男の恥』
舞い上がって飲みすぎた陸は泥酔の為、絶好のチャンスを不意にすることになったのだが、それが却って梨乃の信頼を獲得することになる。
・・・この人は身体が目当てじゃないんだ・・・
梨乃は衝撃だった。ホテル以外でも求めてくる男もいる中、一緒にホテルに入った男性で手を出してこなかった男は陸が初めてだった。
力尽きて眠りこけていた二人。フロントからの電話で目を覚ます。
「チェックアウトの時間ですが延長されますか?」
「う・・・すいません、出ます」
二日酔いの陸は頭痛をこらえながら吐き出すように言うと、受話器を置いて、テーブルの灰皿の横に置いてあったルームキーを慌てて手に取った。
「帰ろうか・・・」と言って、部屋を出た二人はフロントに行き精算をした。
梨乃は半分出すつもりでいたが、陸は何も言わずに独りで会計を済ませた。
「半分出すよ」とルイ・ヴィトンの財布を取りだした梨乃に
「いい女は男に出させるもんだよ」と言って陸は一切受け取らなかった。
梨乃は心の中でつぶやいた『この人だ・・・』
太陽は高い位置まで登っており、雨は止んでいた。
運よくタクシーを捕まえた二人は靖国通りを市ヶ谷方面に向かった。
セミの声がうるさく響いていた。
曙橋付近でタクシーを停めてもらった梨乃は
通常料金のメーターが¥880なのを見て、
「お釣りはいいです」
千円札を出して運転手に渡すと、陸の腕を引っ張って強引に降ろした。
「お茶でも出すからウチ来てよ!休みでしょ?」
まんざらでもなかった陸は特に予定があるわけでもなく、誘われるままに梨乃のアパートに向かった。
アパートのドアの前に来ると、梨乃は一瞬躊躇した。
「ごめん、ちょっとだけ待ってて・・・」
陸を外で待たせて、独りで部屋に入ると大慌てで部屋を整えだした。
どこかでミンミンゼミが鳴いている。
急ごしらえで足の踏み場を作ると、玄関に戻りドアを開けた。
「ごめん、お待たせ。散らかってるけど気にしないで!」
「おじゃまします」
・・・女の子の部屋・・・そう言えば初めてだ・・・
前に使われたのがいつか分からないキッチンの横を抜けてすぐの扉を開けると、マットレスの上にさっき畳んだであろう布団が置かれていた。
「何か飲み物持ってくるから適当に座ってて!」と言うと梨乃は、キッチンにある冷蔵庫に飲み物を取りに行った。複数の人間が出入りしていた過去のある梨乃の冷蔵庫には、好みの違ういろんな種類の飲み物が並んでいた。
慌ててかたずけたのだろう、消臭剤の人工的な匂いがたばこの臭いを隠す様に漂っていた。
初めて来た陸の好みが分からない梨乃は、独りの人間のチョイスではなさそうな、雑多な飲み物をトレーに載せて持ってきた。
「ウエルカムドリンクはいかがですか?」と軽くふざけてみたが、陸には全くウケなかった。
素に戻り
「こんなのしかなくてゴメン、どれがいい?」と陸に聞いた。
まだ二日酔いの陸は、苦渋の選択で
「サイダー・・・かな」と言ってよく冷えたペットボトルを受け取った。
身体はスポーツドリンクを欲していたが、一番近そうなのがギリギリサイダーだった。
「あ~冷たい飲み物が五臓六腑に浸みるぜ~」
おどけることでかろうじて梨乃に気を遣った陸だった。
・・・好みの一貫性を感じない飲み物たちは梨乃の好みなんだろうか?
一瞬疑問に思った陸だったが、二日酔いの倦怠感と頭痛のせいでそれ以上考えることはしなかった。



