■エピローグ
「春日モエです。77.5 FMナナコ ミステリーラジオ!」
土曜日の深夜枠
「本日のゲストはナナコパーソナリティーのLuckyなんばらさんです。」
「どうも、Luckyなんばらです!」
「土曜の午前のなんばらさんが深夜枠に出演していただけるなんて、珍しいですよね?」
「そうですね、まず出ませんね。でも、今日はちょっと特別なゲストをお連れしたんで、私も来させていただきました。
本日のスペシャルゲストは先程武道館ライブを終えたばかり
CICADE(シケイダ)のギターヴォーカル・ヒカルさんです!」
「よろしくお願いします。声掠れててすみません。」
「いえいえ、こちらこそお疲れのところありがとうございます!」
「えーすごーい!!ヒカルさんはライブにこだわっているので、普段はあまりメディアにお出にならないとお聞きしてますが、本日はありがとうございます!なんばらさんとヒカルさんはどういった接点なんですか?」
「けっこう古いよね。ヒカルがまだソロで、アルシェ前で路上ライブやってた頃からだから、もう10年以上になるかな?」
「はい。」
「たまたま通りがかりで『いい歌』歌ってたから、声掛けて、、、あの頃はまだ尖がってたよね(笑)」
「はい、すみません。生意気なクソガキでした。」
「ただ、何か光るものがあるな・・・って思って、ヒカルなだけに(笑)」
「駄洒落ですか~(笑)」
「陰ながら応援してたら、だんだん有名になって、気が付いたら武道館アーティストになってたんだよね!大したもんだよ!」
「いえいえ、みんなの応援のお陰です。」
「この子、って言ってももう30か?この子の偉いのが、ずっと応援してくれてたお礼にって武道館公演のチケットを直接送ってきてくれて。」
「え!なんばらさん行ってきたんですか?」
「そりゃあもちろん行きますよ!CICADAのチケットなんて、そう簡単に取れないし、何といっても甥っ子のコンサートみたいなもんだからね!」
「ライブはどうでした?」
「もう最高!最後は会場全体が一つになって歌ってました!
武道館が歌ってるみたいでしたね!!」
「うらやましーですー!私も行きたかったなー!」
「今度是非来てください。チケット送りますから。」
「やったー!!いいんですか?約束ですよ!
ところで、あまりメディアにお出にならないとお聞きしているヒカルさんがFMナナコにご出演していただけたのは、なんばらさんとの関係だけではないとお聞きしてますが、、、」
「はい、今日はちょっとお知らせがありまして、、、」
「お知らせ、と言いますと?」
「実は僕、2つ下の妹がいるんですが、PTSDが原因で16年くらい前から急に声が出なくなっちゃいまして、まだ声は戻らないんですが、ボランティアで手話を教えたりして頑張ってるんですよ。
そんな絡みで、今年日本で初めて行われる【東京2025デフリンピック】の告知の為に来ました。」
「【デフリンピック】ですか?【オリンピック】とか【パラリンピック】なら聞いたことありますが・・・」
「そうなんです。耳慣れない人も多いと思いますが、デフ(Deaf)とは英語で「耳が聞こえない」と言う意味で【デフリンピック】と言うのは国際的な「きこえない・きこえにくい人の為のオリンピック」なんです。僕も知らなかったんですが、今年が100周年の記念大会と言うことです。
アーティストも同じですが、先ず知ってもらうところから、と思いまして。僕にできる事として、慣れ親しんだ地元のメディアに出させていただき、告知しにきました。」
「妹さんの為ということですか?」
「いえ、妹の為という限定的なモノではなく、少しでも誰かの為に出来る事をって感じです。」
「若いのにご立派ですね~」
「もう30ですからそんなに若くないです(笑)」
「うちの父方のひいじいちゃんは身体障害者だったり、母方のひいじいちゃんは戦争で亡くなってたりと言う因縁とでもいうか、DNAとか魂とかいう部分に突き動かされるっていうか、戦争と平和みたいなことも考えるようになりましたし、自分でもよく分からないんですが、やっぱり父の影響が大きいんだと思います。」
「お父さんの影響が大きいんですね?」
「はい、父からもらった言葉が色々とあるんですが、
【一隅を照らす人間になれ】とよく言われてまして、僕の名前の由来らしいんですが、最初は何のことだか分からなかったんです。年を重ねるほどだんだん分かってきた感じです。
天台宗の偉いお坊さんの言葉らしいんですが、奥が深くて学のない僕にはきちんと説明できません(笑)
ただ『みんなの模範となる人間になれ』みたいな感じらしいです。」
「いいお父さんだったんですね?」
「そうですね、個性的な人でしたが、今思えばいい父親でした。
【苦しいことや、困ったことや、あったら、有難いって思え】と言われた時も初めは意味が分かりませんでしたけど、今は分かります。無難な人生じゃつまらないですから。
妹も声を失って、以前の様にしゃべれないのは不自由ですが、不憫でも、不幸でもありません。
幸せっていうのは誰かから与えられるものじゃなくて、自分の気持ち次第だから。
これも父の受け売りですけど、、、。
その、僕が勝手に【陸語録】って呼んでる父からもらったイイ言葉を僕なりに歌にして、みんなに届けることで、これからも誰かの「生きる勇気」とか「頑張る力」になってくれたら嬉しいなって思って活動しています。」
「深イイ話をありがとうございました。
本日はお疲れのところありがとうございました。それでは一曲お流ししたいと思いますが、
ヒカルさんの方から曲紹介の方お願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい。それでは聞いてくださいCICADE(シケイダ)でVOICELESS(ヴォイスレス)~バラード」
ピアノイントロ♪♪♪・・・♪♪♪・・・♪♪♪・・・
♪あの日の空に叫んだ名前 風に消されて 何も届かない
強がるほどに壊れそうで 言葉にならない声だけが残る♪
♪届かない思いを 胸に抱いたまま 君のいない夜に 僕は歌ってる
たとえ声を失っても 消えかけたとしても♪
♪この この歌だけは 君に 君に 君に 届いてほしい
♪♪♪・・・♪♪♪・・・♪♪♪・・・

少し前に、兄から「FMナナコに出るから、聞いといて」と手紙をもらっていた真理は、普段はあまり聞くことのない時間帯のFMラジオ放送を聞いていた。懐かしい兄の声。真理の頬を涙が伝った。
・・・ちゃんと届いてるよ。お兄ちゃん・・・
ありがとう。
お兄ちゃんはこれから、どこに向かうのだろう?・・・私もがんばんなきゃ・・・

同じころ、歌舞伎町のBarでハーパーの水割りを傾ける男がいた。カウンターの中には長い白髪を後ろで束ねた、白い口髭と顎髭の男。顔だけ見れば、痩せたサンタクロースのような風貌のバーテンダーに客の男は話しかける。

「俺たちの息子はずいぶんと立派になったよ・・・」

グラスの氷が静かに音を立て、夜はゆっくりと更けていった。
その夜空のどこかで、確かに繋がる声があった。途切れた時を越え、想いは巡り、未来を照らす小さな灯となっていくのだった。

END