どれくらい時間が経っただろうか。
ほんの少しに感じたし、何時間にも感じた。
二人はゆっくりと身体を離す。秋葉の涙は消えて、晴れやかな顔に戻っていた。
「憂夜、行くわよ」
「は……? どこへ?」
「白龍のところよ」
「っ……」
ついに、この時が来たかと憂夜の顔が強張った。息が喉に詰まったように胸が苦しくなって、指先が微かに震えた。
秋葉を手放したくない。
だが、神との契約は絶対だ。
「契約を解除しに行くのよ」
「は…………?」
珍しく憂夜が素っ頓狂な声を上げる。想定外の提案に、一瞬だけ彼女が何を言っているのか理解できなかった。
彼の思考がまだ追い付いていないのに気付いてないのか、彼女は当然のように独り合点して話を続ける。
「一刻も早く解除しなきゃ。あなたも手伝ってよね!」
「……」
一周遅れて、やっと頭が回ってきた。
「……白龍の花嫁にならなくて良いのか?」と、恐る恐る尋ねる。
「はあぁ?」
今度は秋葉が素っ頓狂な声を上げる。人の話を聞きなさいよと苛ついた表情で彼を見た。
「なんで? 契約解除するって言ってるわよね?」
「だが……。秋葉は、白龍の花嫁になるために、霊力が消えても鍛錬を続けてたんじゃねぇのか……?」
「もうっ、前も言ったじゃない! それもちょっとあったけど、九割くらいは自分のためね。
私は自分に負けたくなかったの。霊力がないからって、自分の命を自分自身で止めてしまうのが嫌だったの。
だから諦めたくなかった。私は私に打ち勝ちたかったのよ」
「……」
憂夜の黄昏色の瞳が、秋葉の放つ輝きに照らし出された。
彼女の魂は光り続けている。理不尽な運命でも、腐らずに立ち向かっていく。
まさに、強く美しい――龍神の花嫁。

