「春菜っ! 春菜っ!」
秋葉の目の前には、全身傷だらけで、今この瞬間もどくどくと腹から血を流している春菜が横たわっていた。
妹は山に行ったまま夕刻になっても戻って来ず、里の者が総出で捜索してやっと見つけ出したのだ。
「これは……。邪、ですね……」
邪。
それは神でも妖でもなく、ただの闇。あるいは、ただの『悪意』の塊。
この世界の影に潜んでいて、人も神も妖も関係なく、ただ眼前の獲物を喰らう存在だった。
「嘘だろう……」
「そんな……」
夏純と冬子は、愕然と項垂れた。真っ黒な絶望が、二人を包みこんでいく。
邪に捕食されたら、逃れることができない。特に人間如きの霊力では、魂まで全て吸い込まれて太刀打ちできないのが常識だった。
春菜はこのまま邪の中に入って、存在自体がなくなってしまうのだろう。
「諦めちゃ駄目よっ!!」
そのとき、重く沈む空気を切り裂くように、秋葉の力強い声が響いた。
「春菜はまだ生きてる! 私の霊力で絶対に助けるわ!」
秋葉は妹の胸に手をあて、全身全霊で己の霊力を注ぎはじめた。すると、人間がこれまで感じたことのない、とてつもない霊気に大地が轟いた。
里全体が震え上がる。鳥の群れがざわめきながら森から飛び立ち、獣も命からがら森の奥へ逃げていった。
秋葉の霊気ははじめは邪に吸い込まれていたが、やがて競り合い、そして今度はじわじわと邪を侵食していった。
「頑張って、春菜! もう少しだから!」
ぽたぽたと丸い玉のような汗が落ちて、呼吸するのも苦しくなる。体内に宿る生命力が急激に外に出ていくのが分かる。
もしかしたら、自分自身の命が危うくなるかもしれない。
それでも妹を助けたかった。
可愛い春菜。自分と違ってお上品で物静かで、お人形みたいに可愛らしい子。母はよく「霊力以外は春菜を見習いなさい」って怒ってたっけ。
家族の楽しい思い出が、次々と走馬灯のように頭の中をよぎった。この深い絆を、ここで終わらせてはいけないと願った。
「はあぁぁぁっ!」
秋葉の霊力が加速していく。同時に額の龍神の御印が光りだし、白い閃光が里中を照らした。
しばらくして皆が目を開けると――……。

