「本っ当に、腹立つわ! 馬鹿にしやがって!」

 春菜は部屋に戻るなり、またぞろ熊のぬいぐるみを乱暴に投げ付けた。光河に贈られたばかりの新しいぬいぐるみだ。

 前のものは、虫の居所が悪いときに、割った湯呑みで腹を掻っ切り手足をもいでから火にくべた。
 彼に問われたときは、涙を流しながら「可哀想な女中の子供にあげた」と言った。お人好しの愚か者は嘘を丸々信じ込んで、あの時は乾いた笑いが出た。

 春菜の中で吹きすさぶ混沌とした気持ちは、子供騙しのぬいぐるみなんかで発散できなかった。
 こんな血の通っていないものより、()()()()()()()がいいのに……。

 白龍の花嫁はひどく焦っていた。先ほど宝玉から弾かれた理由を知っていたからだ。

 最近、霊力が減ってきているのを感じる。それも、急激に。
 こんなことは初めてで、原因も分からず焦燥感で胸が押し潰されそうだった。

(一体なにが原因なの? あのとき、あの女から完璧に奪えたはずなのに!)

 双子は陰と陽の象徴で、なんらかの作用によって力が反転することがあるらしい。
 だが、姉はもう霊力がない。ゆえに力が反転する要素自体が、どこにもないのに。

(まさか……! あの女に力が戻ってるの……?)

 そんなこと、あり得ない。なぜなら零には何を掛けても数字は動かないままなのだから。
 根こそぎ奪ってやったのに、残っているはずがない。