神々しい雰囲気に、秋葉ごくりと唾を飲み込んだ。周囲を取り巻く空気の隅々までが、黒龍の神力(しんりょく)に満ちているのが分かった。

 秋葉は憂夜に頼み込んで、黒龍の(ほこら)に来ていた。
 彼としても花嫁が来たらすぐに案内をするつもりだったが、心配性の狐宵の反対によってこれまで保留していたのだ。

 そんなに長くない道中だが、暗くて滑りやすい急な階段に秋葉は何度も落下しそうになり、憂夜は別の意味ではらはらしたのだった。

「ここが……黒龍の祠なのね……」

 そして最下層。
 淡い光が明滅して、幻想的な光景に秋葉はほうと感嘆のため息をつく。厳かな空気に、彼女は自然と襟を正した。

「基本的には月に一度ほどここに来ている。あとは八節の時期の人間が龍神を(まつ)る日や、天変地異などが起きたときだな」

「ここで花嫁が神力の媒介になって、力を放出するのね。そのためには莫大な霊力が必要、と……」

「花嫁は龍神の使い――巫女のような存在だ。だから花嫁選びは大事なんだ。
 でも俺は、霊気なんかじゃなく、魂のほうが大切なんだと考えてる。いくら力を持っていても、心が汚れていたら災厄を生み出す源になるからな」

「うん……」

 秋葉は少しはにかみながら俯く。さっきの狐宵といい、内面を褒められるとちょっと照れる。

 でも、それに甘えてはいけないとも思う。
 花嫁の役割は人間界の平穏にも関わっている。だから、もっと頑張らねば。

「一度、中に入ってみるか?」

 憂夜は秋葉に向かって手を差し出した。

「えっ? 大丈夫なの?」

「あぁ。秋葉の肉体は、俺の神力で保護してある。それに黒龍の宝玉の力が、秋葉の内に眠っている霊力を引き出してくれるかもしれないしな。『共鳴』ってやつだ」

「……うん!」

 秋葉は憂夜の手をぎゅっと強く掴んだ。大きな手は、いつもひんやりとしていて、触れているだけで心地良い。彼とこうしているだけで不思議と安心する。

 憂夜はふっと柔和に笑って、

「じゃあ、行くぞ」

 おもむろに進みはじめた。

 そして、結界を張ってある魔法陣に一歩足を踏み入れると、

 ――バチンッ!