はじまりは、秋葉が七歳の頃だった。

「秋葉……! あなた、どうしたの!?」

 なにかに導かれるように、突如家から飛び出した双子の姉が、やっと屋敷に戻って来て母が胸を撫で下ろしたら――……。

「えっ? なぁに、お母さま?」

「その、額の……。印は……!」

 それ(・・)を目視するなり、冬子は全身を小刻みに震わせて恐れ慄いた。

「しるし? ……あついっ!」

 母に言われて額に手を触れると、あまりの熱に思わず飛び上がった。それはみるみる全身に広がって、体の中で炎の大蛇が暴れているようだった。

 次の瞬間、その印から眩い光が溢れ出した。

「おい、なんだこの気は――秋葉!?」

 凄まじい力に驚いて、夏純と春菜が慌てて駆けつける。

「っつ……!」

 秋葉の額から放たれる霊気を前にした途端、二人とも急激に全身が凍り付いて(まばた)き一つできなくなった。

「これは……神力(しんりょく)…………!?」

 霊力よりも遥かに恐ろしい力を、父は感じ取った。

「これは龍神様の御印(みしるし)だ!!」

 初めて聞く父の咆哮。非常に興奮した様子で、目が血走っていた。異様な迫力に、秋葉はぞっと粟立った。

「この子は、龍神様の花嫁に選ばれたのだ!!」



 秋葉が龍神の花嫁に選ばれたことは、瞬く間に他の霊力者たちに伝わった。
 四ツ折家の格は急激に上がって、妹の春菜は次期皇太子だと囁かれている皇族との婚約が内定した。

 順風満帆だった。夏純は瞬く間に名誉も金も手に入れたのだ。
 娘二人が、神と皇族に嫁ぐ。これは皇国史上、最高に名誉なことだった。


 だが、双子が十二歳のときに、突然それは壊れた。