「お疲れ様でございました、光河(こうが)様」

「あぁ、春菜もお疲れ。疲れただろう? 今日はゆっくり休みなさい」

「はい、ありがとうございます」

 花嫁の務めとして、初の龍神の儀式に臨んだ春菜は、大きな充足感を抱いていた。
 若干(・・)、不安だったが、すんなりと魔法陣の結界の中にも入ることができ、神の媒介者として白龍の神力を人間界に流すことに成功した。

 いくら今は自分が千年に一人の霊力を持っているからといっても、過去に白龍と契約をしたのは忌々しい姉だ。
 なので()契約者として弾かれる懸念があったが、何事もなく無事に完了して胸を撫で下ろした。

(お姉様は、きちんと花嫁の義務を果たせたのかしら?)

 霊力のない姉のことだ。きっと大失敗して大怪我を負ったに違いない。はたまた、無能すぎて祠の前にも連れていってくれなかったか。これで追い出されたら最高なんだけど。

「ふふっ……」

 惨めな姉の姿を想像すると、自然と口元が緩んだ。
 あぁ、早く絶望に沈む顔が見たいものだ。殺すのは簡単だけど、姉には生き残ってもらって地獄を味わいながら一生を全うしてほしい。

「そろそろ、あれが辿り着く頃かしら?」

 姉の苦しむ姿を直接この目で見られないのは残念だが、きっと面白い結果を届けてくれるだろう。

 弱っている姉の前で黒龍を奪うのも面白いと思った。
 泣き叫んでいる姉の前で接吻をするのは? 姉に聞こえるように、黒龍に自分への愛の言葉を囁かせるのは?

 春菜は昔から他人に対しての嫌がらせは無尽蔵に思い付くのだ。
 他人が泣き喚く様子を見ると身体がぞくぞくする。それは何ものにも代え難い快楽だった。

「あぁ、楽しみ」