「アキは霊力を取り戻すんでしょう? 諦めないよね?」

 しばらくして、白銀が口火を切った。彼はうるうると涙を滲ませながら黒龍の花嫁を見上げていた。

「も、もちろん、諦めないけど……」

 秋葉は口ごもる。なにか喉につっかえているような、苦しそうな顔をしていた。奥様の悲痛な表情を見取って、瑞雪にどっと後悔の波が押し寄せた。すこぶる気まずい……。

「諦めないのなら、なんでそんな顔をしてるのさっ!」

 次の瞬間、白銀が尻尾で秋葉の頬をペシッと叩いた。彼女は弾かれるように顔を上げる。

「シロ、どうしたのよ。そんなに怒って」と、彼女は目を白黒させて言った。

「そりゃ怒るに決まってるよ! 絶対に霊力を取り戻すって言ったじゃないか! アキの嘘つき! 意気地なしっ!」

 白銀は大声で叫んだあと、滑るように秋葉の背中から離れていった。

「シロ!」

 目にも留まらぬ速さで、屋敷の外へと逃げていく。その丸い瞳からはポロポロと涙が零れていた。

「あー……」

 さらに気まず過ぎる空気に胸をじくじくさせながら、瑞雪が控え目に言った。

「実は……シロなんですけど……。生まれたばかりで母親に捨てられたんです……」

「えっ!?」

 白銀の思わぬ衝撃的な過去に、秋葉は目を大きく見開いた。

「龍族は(つの)が生えているんですけど、シロはそれが無くて……」

「それだけのことで捨てられたの?」

「はい。龍にとって角は大事なものですから」

 龍は角に『気』を溜める。それがないとなると脆弱な個体と見做され、どうせ早死するのだからと赤子のうちに捨てられるらしい。

「それで、ご主人様が死にかけていたシロを拾いまして、こうやって一緒に住んでいるんです」

「そうだったのね。……もしかしてシロは、私と自分を重ねていたのかしら?」

 瑞雪は深く頷く。

「えぇ。奥様も霊力がないので似た者同士と思ったのでしょう。それでも、奥様は諦めずに努力していた。その姿を見て勇気付けられたんだと思います。いつも、奥様のことを嬉しそうに話していましたから」

「そう……」

 秋葉は少し考え込む様子を見せて、

「そう言えば、シロからはよく霊力がないことについて尋ねられていたわ。馬鹿にするでもなかったし、単なる好奇心でもなかった。思い返せば、なにか言いたげな感じだったかも……」

「きっとシロは、奥様に霊力が戻ったら、自分も角が生えるのだと信じていたのでしょう」

「だから私が諦めるような素振りを見せたから怒ったのね」

「悪気はないんだと思います。あの子はまだ純粋な子供ですから」

「どうしよう……シロを傷付けちゃった……。私……謝りに行かなきゃ!」

 秋葉が踵を返した次の瞬間、

「きゃああああっ!!」

 視界を覆うくらいの大量の式神が彼女を襲った。