「――と、いうわけなのです」

 秋葉に詰め寄られて、瑞雪は半ば自棄っぱちに洗いざらい喋った。
 どうせいつかは花嫁も知ることとなるのだ。それが早いか遅いかだかだ。

 もしかしたら、あとで狐宵(こよい)あたりに叱られるかもしれないが、箝口令を敷かないほうがが悪い。即ち、私は悪くない。

「つまりは……」

 秋葉は目を伏せて、黙り込んだ。さっきまでの勢いはなく、どこか落ち込んでいるようにも見える。

「アキ、どうしたの? どこか痛いの?」

 白銀もそれを察したのか、慰めるように首に巻き付いて頭で頬を(つつ)いた。彼女は彼の小さな頭をそっと撫でる。

「ううん、大丈夫。ただ……霊力のない私は、憂夜にとって、物凄く足手まといなんじゃないかって思って……」

「そんなことないと思うけどなぁ。黒龍様はいつも楽しそうにしてるし」

「でも、その間も私の身体を保護するために神力を調整してるんでしょ……」

 秋葉は言葉を閉ざして、再び視線を下に落とした。鉛のような重たい空気が、肩にどっしりとのしかかってくる。沈黙が瑞雪の胸を圧迫しそうだった。

(ううぅ……気まずい)

 瑞雪は秋葉に喋ったことをすぐに後悔した。責任感の強い娘だ、絶対に己を責めるだろうとは思った。

(はぁ……。こういうしんみりした空気って苦手なんだよなぁ……)

 雪女と呼ばれる(あやかし)である彼女は、昔は雪国に住んでいた。そこは太陽の光が届かなくて、身体の芯から凍えるような場所だった。
 雪の妖怪なので寒さは平気なのだが、あの気候のせいか、仲間の雪女や雪男たちは性格まで暗い者ばかりだった。

 瑞雪が「へいへい! ようよう!」と明るく声を掛けても、静かに頭を下げて挨拶を返すだけ。
 みんなほとんど喋らないし、なに考えているか分からないし、ちょーーーー暗い!

 そんな雰囲気に耐えられなくて里を出た。
 最初は南を目指した。そこの妖怪たちは陽気で一緒にいて楽しかったが、南の国は雪国出身の彼女には暑すぎた。

 そうして各地を転々として、黒龍のもとに辿り着いたのだ。
 彼は闇を司る神だけあって、少しひんやりとしていて居心地がいい。周囲には根暗な者もいなくて、どんちゃん騒ぎができて楽しい場所だった。
 ……狐宵はちょっと陰湿なところがあるが。

 霊力のない花嫁がやって来たときは度肝を抜かれたが、秋葉の快活さや負けん気の強いところが気に入った。
 たまの泣き言は仕方ないとは思うが、この問題は長引きそうな予感がするのだ。