四ツ折夏純(よつおりかすみ)は、笑いが止まらなかった。

 黒龍は猛省したようで、通常より遥かに強い神力を龍脈(りゅうみゃく)に流していた。
 おかげで家門の守護する龍泉(りゅうせん)には膨大な黒龍の力が溜まって、他に類を見ないほどの頑丈な結界が出来上がったのだ。

 それでも、無尽蔵に力は流れてくる。余剰分をこのまま自然に垂れ流すのは勿体ないと、夏純は売買を行うことに決めた。

 黒龍の闇の神力は、並の霊力や妖力など足元にも及ばない貴重な代物で、飛ぶように売れた。
 四ツ折家はとても潤い、夏純は皇都や他の家門の前でも居丈高に振る舞うようになった。

 それから数ヶ月経った頃――……。

「当主を出せ!!」

「この守銭奴が!」

 四ツ折家の門を、どんどんと激しく叩く者たちがいた。そこには百人以上の人間が集結していて、全員が眉を吊り上げて怒鳴り付けている。

 彼らは四ツ折家が売り捌いた黒龍の神力により、被害を被った者たちである。夏純は、金さえ払えば素性が分からない人間にも売っていたのだ。

 その中には、良からぬ企みに力を利用する者もいたのだ。そのせいで不当に財産を奪われた人間や、家を失った者、さらには瀕死の大怪我を負った者までいた。

 被害者たちは「そもそも、神の加護を売り捌く四ツ折が悪い」と一致団結して、当主に責任を取らせようとやって来たのだ。

「四ツ折家、当主! 出てこい!」

「弁償しろ!」

 騒ぎはどんどん大きくなっていく。今では被害者たちだけではなく、「四ツ折家が面白いことになっている」と周辺の人々も集まってきていた。

 家はしんと静まり返ったままだ。業を煮やして、彼らが討ち入ろうと(くわ)を握りしめた頃――……。