「わわっ! えっ!? なにっ!?」

 秋葉が白銀(しろがね)瑞雪(ずいせつ)と栗饅頭を食べていると、突如身体が光って、気が付いたら――……。

「えぇっ!? お父様!?」

 目の前に広がる想定外すぎる光景に、秋葉は目を見開いた。決別を告げたはずの父親が鎮座していたのだ。彼の目つきは険しく、憎々しそうに娘を見つめいている。

「……」

 秋葉は、ひとまず手に持っている栗饅頭をどうにかしないとと思って、慌ててそれを口に頬張る。急いで呑み込んで食道に落とした。少し胸が苦しくて、瑞雪が淹れてくれた熱いお茶が恋しい。

 咀嚼しているうちに、周囲を観察してなんとなく状況を掴めた。
 ここは龍神の祠だ。
 きっと父は黒龍を呼び出すつもりだったのだろうが、なにかの手違いで黒龍の花嫁である自分を召喚してしまったのだろう。

「えっ、なんか用?」

 美味しい栗饅頭を平らげて、彼女は怪訝そうな顔をして父を見た。

「父に対してなんだその態度は」と、夏純は渋面で言うものの内心はひどく焦っていた。

 本来ならば黒龍そのものを呼び出したかったのだが、今日は先に白龍を召喚してしまった。()()彼の霊力では、日に二度も神を呼び込む儀式を行うのは厳しかったのだ。

 そこで、花嫁の秋葉だ。
 血の繋がった娘なら、己の血液を辿って比較的安易に道を作ることができる。それには多くの霊力は必要としない。

「手短に言う。お前の夫に、四ツ折の龍泉を元に戻すように言うんだ」

「はぁ?」

 父が言っている意味が全く理解できずに、秋葉は眉を顰めた。

「どういうこと?」