「くそっ!」

 誰もいない(ほこら)の前で、夏純はドンと強く拳を地面に叩き付ける。
 これから己がやらねばならない行動を想像すると、腸が煮えくり返りそうだった。

 どうやら、今回の件は黒龍に頭を下げる以外に道はないらしい。またあの生意気な(おとこ)に頭を下げると思うと、屈辱で全身の毛が逆立った。

 だが最近、里の者や他の霊力者にも妙な噂が流れているのも事実だ。娘が二人も神に嫁いだ四ツ折なのに、その神に見捨てられつつあるのでは、と……。
 これは、龍泉が弱化したことや、当主の霊力が落ちていることが露呈しているということだ。
 全く、どいつが内情を吹聴したのだろうか。早く力を取り戻して裏切り者を一掃せねば。

「はぁ…………」

 腹の中に渦巻く憂鬱感を吐き出すように、深いため息をつく。重苦しい気分で胃が押し潰されそうだった。
 非常に非常に気乗りしないが、己の地位と名誉を守るためには仕方あるまい。