叔父とは、片手で数えるほどしか会ったことはない。父が異様に嫌悪していて、四ツ折家の敷居をほとんど跨がせないようにしていたからだ。

 少ない時間だが、叔父からは霊力者として多くのことを学んだ。話は尽きずに夜遅くまで続いて、いつも母親に「いい加減にしなさい」って怒られていたっけ。

 霊力が消えてしまった秋葉を唯一庇ってくれたのが夏樹だった。彼は不当な理由で長女を冷遇している兄を非難して、自分が姪を引き取ると言ってのけたのだ。

 だが夏純は、秋葉が皇都で暮らすことになると、家門の恥が露呈してしまうと頑なに首を縦に振らなかった。
 その後は徹底的に弟を遠ざけ、秋葉宛てに送られた手紙や贈り物も全て処分していたのだった。

「本当は嫁入りの日に祝いに行けたら良かったんだけど……。何もできなくて悪いね」と、夏樹は口惜しそうに唇を噛みしめる。

 彼は少しだけ湯呑みの添えた己の手を見つめながら思案したあと、ふっと顔を上げて秋葉を見つめた。

「いや……嫁入りの日だけじゃなくて、僕は苦しでいる秋葉ちゃんを助けてやれられなかった。あの時、どんな手を使ってでも、君を屋敷から連れ出すべきだったんだ。本当に申し訳ない…………」

「ううん。そんなことないわ」

 秋葉はふっと笑みを零しながら、少し震えている叔父の手を握った。

「私は、あのとき叔父様が味方になってくれただけでも嬉しかったわ。それに、四ツ折家に残ったからこそ、こうやって憂夜の花嫁になることができたの。だからもう大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

「秋葉ちゃん……」

 夏樹の目頭が熱くなった。あんなに虐げられていた姪が立派に育って嬉しく思ったのだ。

「ねぇ、これからはちょくちょく遊びに行っていい? 今度、叔母様たちにも会いたいわ」

「もちろんだよ。次は皆ですき焼きを食べよう」

「やったー、すき焼き!」

「俺が美味い肉を持ってこよう。酒は頼んだぞ」

「えっ、憂夜も来るの?」

「当たり前だ」

「親族の集まりなんですけど」

「俺も親族だ。夫だからな」

「憂夜は神族でしょう」

「誰がうまいこと言えといった」

 ピン、と憂夜は秋葉の額を指で弾く。すかさず彼女も「たぁっ!」と仕返しに彼の頬を(つつ)こうと指を伸ばしたが、簡単にそれを捕獲されてしまった。

 新婚の二人の眩しいくらいに仲睦まじい様子に、夏樹はふっと口元を緩める。姪が霊力を失い白龍の花嫁の証も消失したときはどうなるかと案じたが、結果的に黒龍様の花嫁に選ばれて良かったと心から思った。

「黒龍様、姪のことをよろしくお願いいたします」

「ん?」

 憂夜は秋葉とのじゃれつきを一瞬だけ止めて、

「ああ。お前も、これからも秋葉のことを頼むぞ。親族として、な?」

「はい……!」