「冷たいっ! 美味しい〜!」

 二人が最初にやって来たのは、皇都で人気の異国風甘味屋だった。秋葉が「『あいすくりぃむ』っていう冷菓を食べたい」と熱望したのだ。

 彼女が口にしているのは、香莢蘭氷菓子(バニラアイス)
 氷のように冷えているが、削った氷とは少し違って滑らかで舌触りが良い。まろやかな甘さが、舌の表層を優しく包みこんでくれた。

「シロが言っていたの。皇都に行ったら、絶対にあいすくりぃむは食べなきゃ駄目だって。あの子が夢中になる気持ちも分かるわ〜」と、彼女は新しいお菓子にご機嫌だ。

「そりゃ良かった。異国風の菓子はまだ皇都(ここ)でしか食えねぇもんな」

 憂夜はたっぷりと蒸留酒を染み込ませた洋菓子(ケーキ)をぱくついていた。辛党の彼にとって、このツンとした酒精の香るケーキは大好物だ。

「『でぇと』って、すっごく楽しいわね。こんなに美味しいものを食べられるなら、毎日したいわ」

「あー……。少し違うが……」

 この鈍い花嫁にどう説明をしようかと、憂夜はしばし頭を捻る。だが、とても美味しそうにニコニコしながら頬張る秋葉を見たら、これはこれでまぁ良いかと思った。

「これ食ったら、秋葉の新しい服を見に行くか。上背があるから、異国の長衣(ワンピース)なんか似合うんじゃねぇか」

「え? これ食べたあとは天ぷらでしょう?」

「……」

「締めはお寿司ね」

 秋葉は間髪を容れずに真顔になって答える。
 瞳孔が開いた柿渋色(かきしぶいろ)の瞳は見えない圧をかけてきて、憂夜は「お、おう」と頷くしかなかった。

(このあと天ぷらって、食う順番が逆だろ……。つーか、まだ色気より食い気だな)

 呆れ気味に秋葉を見やるが、それでも嬉しそうな彼女を見ているだけで彼の胸は幸せな気分で満たされる。こんなに喜んでくれるのなら、毎日でもデートに連れ出したいものだ。


「秋葉ちゃん……?」

 そのとき、不意に憂夜の背後から男の声が聞こえた。その瞬間、秋葉の瞳が爛々と輝きだす。

「夏樹叔父様!」