「くそっ!」
誰もいない祠の前で、夏純はドンと強く拳を地面に叩き付ける。悔しそうにギリギリと歯ぎしりをして、盛大に舌打ちをした。
途轍もない屈辱だった。
龍神としての仕事を怠った挙げ句、義父である自分を批難するなんて。
大体、霊力を失って無能に成り果てた秋葉のほうが悪い。あれのせいで四ツ折家の名誉が一時的に失墜してしまったのだ。
春菜の皇族との婚姻の破断、霊力者の総会幹部への道も絶たれ、金の工面も苦労して……。
あの娘のせいで己の計画が全て狂ってしまった。無能以外に言い表しようがないではないか。
「はぁ…………」
彼は体内の残留している怒りを吐き出すように、長いため息をつく。
とんだ時間の無駄だった。あんな愚かな者たちに頼った自分が馬鹿だった。
ひとまず様子見で、もし悪化するようだったら再び白龍様に頼めばいいじゃないか。あの無能な親不孝者の夫と違って、優しい春菜の夫ならなんとかしてくれるはずだ。

