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「ああっ、もうっ! 腹立つわ!」
自室に一人になるなり、春菜は怒りに任せて光河から贈られた熊のぬいぐるみを思い切り床に叩き付けた。
皇都で流行っているという異国のぬいぐるみだ。しかも花嫁のための特注品で、瞳の宝石だけで庶民が数年は楽に暮らせるほどの高価なものだった。
白龍に嫁入りして、屋敷の者たちから盛大な歓迎を受けた。
人間の自分に、上位の種族の者たちが頭を下げるのは大層愉快だった。
白龍の屋敷は四ツ折の家など比べ物にならないくらいに豪華で、散りばめた金箔や見事な漆塗り、豪華な調度品。幼い春菜が夢見た『お姫様』みたいな場所だった。
それは以前皇族との婚約の際に、渋々向かった皇家の屋敷よりもずっと素晴らしかった。
春菜を迎える準備も完璧で、滅多にお目にかかれない虹色に光る白い反物や異国の長衣、純金の簪や煌めく真珠――彼女が欲しいものは全て揃っていた。
なのに。
この腹の底からふつふつと湧き上がる憤怒は、なぜ今も無限に広がっていくのだろう。
まだ怒りが収まらずに、熊の頭を踏んづける。ぐりぐりと力を込めると、頭が潰れていって少しだけ溜飲が下がった。
弱い者をいじめるのは大好きだ。
ただでさえ底辺にいて無抵抗な者を、奈落の底まで突き落とすのは単純に楽しい。愉快だし、面白い。
嫁入りの日も、無様な姉を絶望のどん底のどん底のどん底のさらに奈落の奥底に堕とすのを楽しみにしていたのに。
何年も、何年も。

