「霊力のない人間がここで暮らすのは厳しいと思います」
「えーっ! そこが面白いんですって!」
彼女はニヤリと笑いながら、興奮する気持ちを表すように箒を上げ下げしながら言った。
「霊力がないのに龍神の花嫁になるなんて、物凄い胆力と根性ですよ。ありゃあ大物になりますわ~」
「おっ、瑞雪もそう思うか」
憂夜の口の端が自然と吊り上がる。
「はいっ! 憂夜様は女を見る目ありますねぇ~」
「はっはっは! そうかそうか。――よし瑞雪、あとで小遣いをやるから下界で好きな甘味を食ってこい」
「やったー! あざざまっす!」
瑞雪は甘いものに目がなかった。雪女の彼女は、特に真冬の雪原を思わせるかき氷が大好物で、暑い夏に下界まで食べに行っていた。
己の妖術でも氷を出せるのだが、人間が削る氷のほうがふわふわで美味しいらしい。
盛り上がる二人を横目に、狐宵は不安げに黒龍の花嫁を見つめていた。
初めて会ったときから、彼女からは霊気の気配を全く読み取れない。脆弱すぎる。彼女が再び霊力が戻るとは、にわかには信じられなかった。
対する白龍の花嫁は、千年に一人の霊力を持つという。
二人の花嫁の均衡が著しく崩れると、この世の光と闇の平衡も決壊してしまう可能性があるのだ。
それに――……。
「狐宵さんは優しいですねぇ~」
狐宵が現実に引き戻されてはっと顔を上げると、瑞雪がニッと笑顔を向けていた。
「なにがですか?」
彼は済まし顔で知らんぷりを決め込む。
「またまたぁ〜〜〜」
彼女はニヨニヨと薄ら笑いを浮かべながら、肘で彼をつついた。
「私は、憂夜様のご負担を危惧しているのです。僅かの不安要素も退けておきたいのです。主をお守りするのは、私の使命ですから」
ほんのり顔を赤くして早口でまくし立てる狐宵に、憂夜と瑞雪はケラケラと声を出して笑った。

