「秋葉、ちゃんと晩飯は食ったか?」

「ぎゃあっ!!」

 突然の頭上からの憂夜の声に、秋葉は飛び上がった。

「ちょ、ちょっと……! 声くらいかけてよ」

「何度も扉を叩いたぞ。気付かなかったのか?」

「えっ!? そうなの?」

 呆れたように憂夜が苦笑いをする。そして、右手で秋葉の前髪をかき上げながら額に手を置いた。ひんやりとした心地良さに、彼女は不本意にも安堵感を覚える。

「考えごとか?」

「まぁね……」

「……」

 憂夜は少しだけ秋葉を眺めたあと、

「こっちへ来い」

「わっ!」

 秋葉の手首を掴んで、ベッドの上に座らせた。そして、すかさず彼女を抱きしめる。

「な、なにするの!」

 憂夜の腕の中が熱くて、自分の身体も呼応するようにかっと熱くなって、脈がどんどん速くなっていく。
 頭が彼の胸にくっついて心臓の音が聞こえたけど、彼の鼓動なのか自分の音なのか分からなかった。

「秋葉が落ち込んでるから励ましてやるんだよ」

「べっ、別に、私、落ち込んでなんか――……っつ……!?」

 憂夜は秋葉の背中に腕を回して、ぽんぽんと頭を撫ではじめた。赤子を寝かし付けるみたいな規則正しい動きに、またもや安堵感が湧いてくる。
 次第に目を閉じて、彼の胸の中に顔を(うず)めた。

 こんな風に抱きしめられたのはいつ振りだろうか。
 少なくとも霊力が消えた日から、両親からは抱きしめられるどころか触れられることもなくなった。

(温かい……)

 自然と、彼女の腕も彼の後ろに伸びる。彼の背中は、とても大きくて頼もしく感じた。

「……本当にいいのか?」

 しばらくして、憂夜が彼女の耳元で囁いた。

「えっ……?」

 思わぬ質問に驚いて、顔を上げて彼を見る。黄昏色の瞳は、不安げに揺らいでいた。

「どういうこと?」

 彼は一瞬だけ押し黙ってから、

「秋葉は……本当は白龍に嫁入りしたかったんじゃないのか?」