「憂夜様は、それはそれは長いあいだ、花嫁様が来るのを心待ちしていたのです」
「そうそう。ご主人様ったら来る予定のない花嫁のために、常に入念な準備をしていたんですよ。白龍様に対抗して」
「……!」
突然の声に驚いて振り返ると、入口の扉の前に二つの影があった。
それは男女の二人組で、どちらとも人間の姿だが別の種族の『気』を持っていると秋葉はすぐに気付いた。
男のほうは憂夜と同い年くらいに見える。黒龍よりも少しだけ背丈が低く、身体の線も細かった。
碧い瞳に薄めた梔子色の髪。優しい顔立ちをしていて、口元に微笑みをたたえて柔和な雰囲気だ。
彼は銀鼠色を基調にした背広を着ていて、すらりとした脚の長さが際立っている。皇都でしか見たこともない異国風の服装に、秋葉は目を瞬かせた。
そして女のほうは、秋葉と同じくらいの年齢に見えた。雪のように白い肌に淡藤色の髪が幻想的だ。きりりとした切れ長の茜色の一重が印象的だった。
彼女も異国風の服装で、踝までの紺色の長衣に白く清潔な異国風割烹着を着ている。
唇を引き結んで、表情が読み取れなかった。
「お前らなぁ……」と、憂夜が顔をひくつかせて振り返る。
「事実ですから」
「本当のことですね」
二人は、息ぴったりに声を重ねて言ってのけた。
秋葉が目をぱちくりさせていると、憂夜はコホンと大きく咳払いをした。心なしか、顔がほんのり上気しているように見えた。

