黒の花嫁/白の花嫁


「よ〜う、白龍」

 不意に、秋葉を庇うように、一人の青年が彼女と妹の間に立った。

「黒龍か……!」

 光河は旧友の神力(しんりょく)を感じ取って、僅かに口元を緩める。

「来てくれたのか」

「当然よ。腐れ縁の婚姻なんざ興味津々だろ〜。酒と(さかな)で、しっかり祝わねぇとなぁ〜」

「はは。相変わらずだね。祝福に来てくれてありがとう」

「はっ」

 彼――黒龍の目つきがにわかに鋭くなった。黄昏色の瞳が、みるみる怒りに染まっていく。

「こんな状況、祝える雰囲気じゃねぇだろ」

 そして吐き捨てるように言った。たちまち剣呑な空気が彼らを包み込んでいく。

「どういうことだ……?」

「なぁ、白龍。お前は、その娘と婚姻を結ぶんだな?」

「勿論だ。私の印がここにあるからね」

 白龍は春菜の額に手を触れる。すると光を増して彼に呼応した。
 黒龍はその様子をしげしげと眺めたあと、

「全く……。お前は昔から抜けてると思っていたが、女を見る目も節穴だなぁ〜、おい」

 ニヤリと口元を吊り上げた。

 白龍が不思議そうに首を傾げていると、黒龍はおもむろに秋葉のもとまで向かって、彼女を抱き上げた。

「じゃあ、この娘は俺が貰うぜ」

「えぇっ!?」

「はぁっ!?」

「……」

 秋葉は目を剥き、春菜は目を白黒させ、白龍は閉じた瞼をぴくりと動かした。
 黒龍はそんな周囲の反応を無視して、秋葉の顎を掴んでくいと持ち上げる。

「俺は黒龍。名は憂夜(ゆうや)だ。お前の名は?」

「わっ……私は、秋葉……です……。秋に、葉っぱで秋葉」

「秋葉か。良い名前だな」

「ありがとうございます……?」

 秋葉は間抜けな声で礼を言う。独特の空気を持つ黒龍の勢いに気圧されて、もう何がなんだが分からなくなっていた。彼の飄々とした雰囲気に、どんどん呑まれていく気がする。

「ならば、秋葉。――お前、俺の嫁になれ」

「はい……………………えぇぇえっ!!」

 秋葉は仰天して大音声で叫んだ。

 憂夜は彼女の腰を抱いて、ぐいと身体を引き寄せて楽しそうに言った。


「余りもの同士、仲良くやろうや」