◆
丁寧に白粉を塗って、仕上げに鮮やかな紅を唇に引く。清楚な白無垢に包まれた雪のような白い肌に、赤い口元が艶やかに映って、花嫁の美しさを一層引き立てていた。
「春菜、とても綺麗だわ」
「あぁ。龍神様の花嫁に相応しい」
「ありがとうございます。お父様、お母様」
春菜がにこりと微笑むと、ぱっと周囲を明るく照らす。それはまさしく春の風が吹いたみたいだった。
つくづく、秋に生まれたのが腹が立つ。春のほうが断然美しいのに。
父は、最初に生まれた姉を『秋葉』。対として妹を『春菜』と命名したらしい。
忌々しい秋。春は世界の始まりを告げるのに、秋はただ死を迎えるのを待つだけだ。
(……ま、今日で『秋』は本当に終わるけどね)
大声で笑いたくなるのを必死で堪えた。早く、姉の惨めに沈む姿を見たいと思った。
(あの日……一生懸命頑張って良かった…………)
その時。
けたたましい雷鳴が轟き、大地が割れるほどに激しく揺さぶった。同時に、滝のような大雨が降り注ぐ。
龍神の来訪を示す合図だ。
春菜と両親が急いで屋敷の外へ出ると、もう雨が上がって太陽が顔を出していた。中庭はさっきの轟音からは想像もできないくらいに、春のような穏やかな空気に満ちあふれていた。
その中央に立っていたのは――……。
「龍神様!」
その青年は、息を呑むような美しさだった。
白皙の美貌に銀色の長い髪が神秘的で、閉じられた瞳からは、優しさが溢れ出ている。
長身だが細身の身体が、どこか中性的な雰囲気を帯びていた。
春菜は、ぬかるみも気にせず一目散に龍神のもとへ駆け寄る。そして勢いよく抱きつくと、彼はふわりと優しく受け止めた。
「会いたかったよ。私は白龍。名は光河だ。君の名は?」
「春菜と申しますわ、光河様。あぁ……わたしは今日という日をどんなに待ち望んでいたか……」
白龍はいつまでもしがみつく春菜の額の、神の印をそっと撫でて微笑んだ。
「この霊力……。あのときと変わっていない。活き活きとした素晴らしい霊気だ」
「光河様のために、霊力を磨いてまいりましたの」
「では、儀式を――」

