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「やーーっ!」
「たぁーーっ!」
彼が地上に降り立ってみると、なんとも元気な少女の声が耳に入った。
「とぉーーっ!」
声は際限なく続き、どこかくぐもっていた。でも全く疲れを見せずに、瑞々しい生命力を感じる。
「あそこか」
なんとなく引き寄せられて声のもとへ向かってみると、離れにぽつんと建ってある古めかしい蔵の中からその声が聞こえてきた。
「やぁ――きゃあぁっ!?」
秋葉の渾身の体当たりが宙に掠って、前につんのめる。すると、大きな何かにしっかりと受け止められて、すぐにまっすぐな姿勢に戻された。
顔を上げると、そこにはこれまでに見たこともないほどの美しい青年が、興味深そうに彼女を見つめていた。
魂を吸われそうな蠱惑的な瞳は、藍だったり橙だったり黄昏のような不思議な色をしていた。艶のある漆黒の髪が、彼の堀の深さを一層際立たせている。
上背もあって、彼女がもたれかかった胸板は筋肉でがっしりとしていた。
「お前は……。あのときの……」
彼は目を見張って小さく呟く。だが幸いにも、彼女に声は届いていないようだ。
秋葉はしばし彼に目を奪われたあと、はっと我に返って弾くように身体を離した。
「あっ……、ありがとう、ございます……!」
「相変わらず活きが良い娘だな。こんな場所で何やってたんだ? 怪我は……なさそうだな」
「うっ……」
「花嫁は、早く準備しねぇといけないんじゃねぇか?」
「花嫁……? あぁっ!!」
秋葉の大声に、彼は思わず耳を塞いだ。
「私、行かなきゃ!」
次の瞬間には、彼女は慌てて走り出す。
「助けてくださって、本当にありがとうございます〜!」
「お〜う、達者でな〜!」
彼は彼女を見送ったあと、ふと冷静になって首を傾げた。
「なんで今日の主役が蔵に閉じ込められてんだ?」

