黒の花嫁/白の花嫁






「春菜あああぁぁぁぁぁっ!!」

 秋葉の、咆哮のような叫び声が轟く。彼女の肉体は隅々まで清らかな霊力で満たされていて、周囲にかかる黒い影をみるみる消し去っていっていた。

「人様に迷惑を掛けるんじゃないって、いつも言ってるでしょうがあぁぁっ!!」

「うるっさいっ!!」
 
 春菜は再び攻撃を開始した。影を五十本の刃に変えて、秋葉めがけて一直線に突進させる。

 だが。

「な、なにっ……?」

 彼女の霊力が、するすると収縮していく。しかも、白龍の神力を借りることもできずに、威力はみるみる落ちていった。

「はぁっ!」

 秋葉は、宙に向けて勢いよく回し蹴りをした。すると彼女の霊気が広がって、五十本の刃はガラガラと音を立てて無惨に破壊されてしまう。

「くそっ!」

 春菜は何度も攻撃を繰り返すが、秋葉によって悉く潰されてしまった。

(わたしの霊力が……元に戻っている……?)

 姉を奪う前の、凡人の頃(・・・・)と同じに……。
 こんなの、自分じゃない。

 そのとき、秋葉は高く跳び上がって妹の目の前に着地をし、

 ――バチンッ!

 思いっ切り頬をぶっ叩いた。文字通り全身全霊の、己の霊力を込めてだ。
 春菜は姉の力に圧倒されて、張り倒される。

「さぁっ! まずはその白龍の宝玉を返してもらうわよ!」

 秋葉は妹の抱きかかえる宝玉に手を触れた。

「絶対に渡すもんかっ! これは、わたしのものよっ!」

 春菜は負けじと強く引っ張る。姉妹は少しのあいだ、揉み合いになった。

 次の瞬間。

「わっ!」

「きゃあぁっ! 蛇ぃっ!」

 出し抜けに、秋葉の懐から白銀(しろがね)が顔を出した。

 春菜はびっくりして、華奢な身体が縮こまった。彼女にとって、蛇は子供の頃から恐怖の対象だった。
 姉はそれを覚えていて、白銀に「ここぞという時に飛び出して春菜の動きを止めて」とお願いしていたのだ。

 彼は「ぼくは蛇じゃない」とぷりぷり怒っていたが、屋敷に帰ったら大好物の焼き芋をいっぱい作ってくれるという約束で手を打ったのだった。

 一瞬の隙を突いて、白銀は「えいっ!」と春菜が持っている白龍の宝玉を頭で突き出す。

 すると玉はポンと跳ねて、

「よ、っと!」

 秋葉の手に収まった。すぐさま再び邪に侵されようとしていた宝玉を浄化する。
 すると黒い影は消え去って、もとの真白な美しい玉が蘇った。

 春菜はまだ鼓動が落ち着かなくて、よろよろと後ずさった。まさか伏兵がいたなんて。
 背後には、もう壁。
 物理的に追い詰められた彼女は、精神的にも限界が近付いていた。

 卒然と、過去の屈辱が走馬灯のように蘇って、姉への憎悪を滾らせていく。
 昔からあの爛々と輝く瞳が気に食わなかった。ハキハキとした物言いが気に食わなかった。正義感面した態度が気に食わなかった。

 そうやって、いつもわたしを見下して。
 同じ双子なのに、ちょっとだけ先に生まれたからって。
 霊力だって、きっと生まれる前にお腹の中でわたしから奪ったんだわ。

 春菜の肉体が、心臓の奥から黒く染まっていく。
 彼女の中は憎しみ、憎しみ、憎しみ。恨み、恨み、恨み……。

「許せない……」

 絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に……!!

 刹那。

「ああああぁぁぁぁぁっ!!」

 春菜の可愛らしい姿は消え去って、真っ黒な人型の影に変貌した。