黒の花嫁/白の花嫁


「秋葉、無事か? ――これは……!?」

 見ると、秋葉の皮膚の表層を覆うように淡い光の膜ができていた。この力は、紛うことなき白龍の光の神力だった。

「間に合った……」

 満身創痍の光河は、片足をつきながらゆっくりと上半身を起き上がらせた。
 彼は弱った力を振り絞って、秋葉へ加護の力を与えていた。自分自身の力で、白龍の神力の宿った宝玉の攻撃を相殺させたのだ。

「なんでまだ正気なのよっ!? なんで、(この女)の味方をするのっ!?」

 春菜は憤慨のあまり、真っ赤な顔で地団駄を踏んだ。完全に邪の中に堕としたつもりの白龍が、あろうことか己ではなく姉を助けるのが許せなかった。

「紫流、大丈夫?」

 光河は春菜の問い掛けを無視して、大事な臣下を介抱した。その様子を春菜は憎々しげに()め付けている。
 紫流は悔しさを滲ませている()花嫁に対して、皮肉な笑みを浮かべて言った。

「黒龍様は花嫁様への式神襲撃の首謀者に気付いて、狐宵(こよい)を通じて私に教えてくださいました。そして万が一に備えて、煎じ薬に入れる生薬(しょうやく)を分けてくださったのです。
 ――邪除けの効果のあると言われている、仙人の里にしか生息しない黄桃の粉を」

 憂夜はニヤリと得意げに笑って、光河は大きく眉を上げた。

「……あの苦みは、春菜が忍ばせた邪の気かと思っていた」

「あの女には、煎じ薬の件はもとより話していませんでしたから」と紫流。

「やられたね」と、光河は苦笑しながら憂夜を見た。「君には借りができたね。ありがとう」

「なぁに、困ったときはお互い様よ」

 相変わらずの憂夜の飄々とした態度に、光河の胸は少しだけ軽くなった。
 黒龍とは、嫁入りの際に決別を選択したのに、こうして助けに来てくれた。彼のその懐の深さが羨ましいと感じた。

 なのに、自分はどうだろう。
 秋葉を不幸にして、今度は妹の春菜までもを不幸に引きずり込もうとしている。二人の女性の運命を狂わせて、なにが人間を守護する龍神だと……ひどく己に腹が立った。

 春菜が暴走したのは、自分の責任だ。
 一人の男として、最低だ。