黒の花嫁/白の花嫁


「……」

 秋葉は、白龍の宝玉を目に留めると、不思議と身体が動けなくなった。
 吸い込まれるように、それから視線が離せなかった。どくん、どくん、と鼓動が強く打っている。急激に体温が上がって、体内が芯から沸騰しているようだった。

 次の瞬間。
 秋葉の額に白龍の御印(みしるし)が浮かび上がった。同時に、春菜の持つ黒く染まった宝玉にも、同じ印が浮かび上がって光を放ちだす。

「熱い……!」

 光は同じ間隔で明滅し、秋葉と宝玉の二つの印が共鳴しはじめた。
 すると、横たわっている白龍の額にも、その印がゆっくりと浮かび上がる。

「私の血…………」

 秋葉は本能的に理解(わか)った。幼い頃に瀕死の白龍に分け与えた血は、あの宝玉の中に閉じ込められている。
 春菜が邪の力でそれを支配している今、秋葉の肉体も強く縛り付けられている感触で苦しかった。

「私の血……返してっ!」

 秋葉は我を失ったように、春菜に飛びかかろうとする。

「やめろ、秋葉!」

 憂夜が慌てて彼女を制止した。あまりにも無防備な攻撃は、自ら死ににいくようなものだ。
 現にあの妹は、纏う影を無数の茨の鞭に擬態させて待ち受けいている。

 だが秋葉は、何かに取り憑かれたように彼の腕の中でもがき続けた。柿渋色の瞳はついに光を失って、宝玉だけを映していた。

「落ち着けって!」

「私の血が……白龍様の血が……()()()()…………」

 その言葉に、憂夜はつい力を緩めてしまった。見て見ぬ振りをしてた不安の波が、どっと胸に押し寄せてくる。

 ――私たちの。

 まだ二人の契約は続いているのだという厳しい現実を、暴力的なまでに思い知らされた気がした。

 秋葉は「解除する」と言ったが、果たして人間が神の力を覆すことができるのだろうか。
 神同士でも、(ことわり)に逆らうことなど不可能なのに……。