「たのもーーーーーーーー!!」
秋葉の耳をつんざく馬鹿でかい声に、憂夜は顰めっ面で両手で耳を塞いだ。
「……お前、声でかすぎだろ。うっせぇよ」
「だって、誰もいないんだから仕方ないじゃない」
「妙だよな……」
記憶している白龍の屋敷とは掛け離れた雰囲気に、彼は眉根を寄せる。
ここは見かけはギンギラギンの派手な屋敷ではあるが、主の性格を反映した穏やかな空気が流れいていた。
華美な装飾に目を瞑れば、光河ののほほんとした能天気な空間に支配されていたのだが。
昔はよく土産の酒を片手に遊びに行ったものだった。
白龍も側近の紫流も、憂夜の鯨飲に最後まで付き合ってくれて、とても楽しい時間を過ごしたものだった。
「たのもーーーーーーーー!! 白龍様と、契約の解除に参りましたーーーーーーーー!!」
「たーーのーーもーーーーーー!!」
そのとき、にわかに秋葉の懐から白銀がぴょいと出てきて、彼女の真似をして叫びはじめた。
「げっ! シロ! お前まで来たのかぁ〜?」
「うん! ぼくも白龍様のお屋敷に行きたかったんだもん」
「あのなぁ〜……。今回は遊びじゃねぇんだぞ?」
「知ってるよ! ぼくはアキの護衛なんだ! 主をお守りするのが、ぼくたちの仕事だって狐宵が言ってたよ」
「はぁ……分かった。じゃあ、なにかあれば秋葉を連れて俺たちの屋敷まで逃げるんだ」
「ぼくは逃げないもん!」
「私も逃げないわよ」
二人揃って口を尖らせて抗議をするが、憂夜は矢庭に真剣な表情になって、威圧するように彼らを見据えた。
「何やら穏やかでない、おかしな気を感じるんだ。……神でも妖でもない、嫌な気配がする」
以前、秋葉に式神の大群が襲撃してきたことがある。あのあと憂夜が霊気を辿ると、ここ白龍の屋敷に行き着いた。
それは人間の霊力だった。
そして……この場所にいる人間は一人しかない。
あの女――秋葉の妹は、霊力が消えた姉に対して随分と酷い真似をしてきたらしい。
そんな異様に蔑んでいた姉が、己と同じく龍神の花嫁になったのだ。彼女の怒りは相当なものだろう。
妹が今も姉の命を狙っているのは間違いない。
これは、単なる嫌がらせではない――本物の『殺意』だ。
「だから、お前たちは十二分に気を付けるように。命の危機を察したら迷わず逃げろ」
「分かったわ」
「うん……」
秋葉も白銀も、憂夜のひりつく緊張感を感じ取った。理由は分からないが、あまり事態がよろしくないのは確かだ。
「さて。返事がねぇから勝手に入るか。白龍の部屋の場所は、俺が知ってるから――」
突如、憂夜は口を閉ざす。
尋常ではない不快感に、全身の毛が逆立った。
これは、『邪』の気配だ。
しかも、かなり濃い。
「どうしたの? 顔が真っ青よ?」
彼の急激な変化を察知して、秋葉は心配そうに顔を覗き込む。
「やべぇ……」
彼は滴り落ちる汗の粒を拭う。
「白龍が不味いかもしれない!」
秋葉の耳をつんざく馬鹿でかい声に、憂夜は顰めっ面で両手で耳を塞いだ。
「……お前、声でかすぎだろ。うっせぇよ」
「だって、誰もいないんだから仕方ないじゃない」
「妙だよな……」
記憶している白龍の屋敷とは掛け離れた雰囲気に、彼は眉根を寄せる。
ここは見かけはギンギラギンの派手な屋敷ではあるが、主の性格を反映した穏やかな空気が流れいていた。
華美な装飾に目を瞑れば、光河ののほほんとした能天気な空間に支配されていたのだが。
昔はよく土産の酒を片手に遊びに行ったものだった。
白龍も側近の紫流も、憂夜の鯨飲に最後まで付き合ってくれて、とても楽しい時間を過ごしたものだった。
「たのもーーーーーーーー!! 白龍様と、契約の解除に参りましたーーーーーーーー!!」
「たーーのーーもーーーーーー!!」
そのとき、にわかに秋葉の懐から白銀がぴょいと出てきて、彼女の真似をして叫びはじめた。
「げっ! シロ! お前まで来たのかぁ〜?」
「うん! ぼくも白龍様のお屋敷に行きたかったんだもん」
「あのなぁ〜……。今回は遊びじゃねぇんだぞ?」
「知ってるよ! ぼくはアキの護衛なんだ! 主をお守りするのが、ぼくたちの仕事だって狐宵が言ってたよ」
「はぁ……分かった。じゃあ、なにかあれば秋葉を連れて俺たちの屋敷まで逃げるんだ」
「ぼくは逃げないもん!」
「私も逃げないわよ」
二人揃って口を尖らせて抗議をするが、憂夜は矢庭に真剣な表情になって、威圧するように彼らを見据えた。
「何やら穏やかでない、おかしな気を感じるんだ。……神でも妖でもない、嫌な気配がする」
以前、秋葉に式神の大群が襲撃してきたことがある。あのあと憂夜が霊気を辿ると、ここ白龍の屋敷に行き着いた。
それは人間の霊力だった。
そして……この場所にいる人間は一人しかない。
あの女――秋葉の妹は、霊力が消えた姉に対して随分と酷い真似をしてきたらしい。
そんな異様に蔑んでいた姉が、己と同じく龍神の花嫁になったのだ。彼女の怒りは相当なものだろう。
妹が今も姉の命を狙っているのは間違いない。
これは、単なる嫌がらせではない――本物の『殺意』だ。
「だから、お前たちは十二分に気を付けるように。命の危機を察したら迷わず逃げろ」
「分かったわ」
「うん……」
秋葉も白銀も、憂夜のひりつく緊張感を感じ取った。理由は分からないが、あまり事態がよろしくないのは確かだ。
「さて。返事がねぇから勝手に入るか。白龍の部屋の場所は、俺が知ってるから――」
突如、憂夜は口を閉ざす。
尋常ではない不快感に、全身の毛が逆立った。
これは、『邪』の気配だ。
しかも、かなり濃い。
「どうしたの? 顔が真っ青よ?」
彼の急激な変化を察知して、秋葉は心配そうに顔を覗き込む。
「やべぇ……」
彼は滴り落ちる汗の粒を拭う。
「白龍が不味いかもしれない!」

