黒の花嫁/白の花嫁






 衝撃的な光景に、紫流は目を見張る。
 眼前の夫婦は、仲睦まじく寄り添っていた。春菜の細い手が光河の胸元をゆっくりと撫でて、甘えるように見上げていた。光河はうっすらと笑みを浮かべて、妻にされるがままだ。

「紫流さんったら、酷いんです。光河様がわたしに下さった宝玉を奪おうとするのですわ」

「それは、いけないね。あれは私の春菜(・・・・)のものなのに……」

「主の意向に逆らう者は、罰を与えないといけませんわ」

 春菜から黒い影が伸びる。

「光河様! 目をお覚ましくださいっ!!」

 紫流は必死に声を張り上げる。主のこのような姿を見たくなかった。

「貴方様は、白龍様――龍神です! こんなものに惑わされないでくださいませ!」

 彼は影が届く前に、水刃を顕現させた。複数の刃が鎖のように繋がって、飛び魚の如く物凄い速さで床を跳ね進んだ。
 向かった先は、春菜ではなく。

「光河様っ……! どうか……!」

 鋭利な鎖は光河を覆う影に突っ込んでいく。
 衝撃音が轟く。
 水飛沫が舞う。
 光河の全身がずぶ濡れになった。
 同時に、春菜の攻撃も紫流に届く。赤い血が流れる。

 しばらくの沈黙。
 そして、

「ん……紫龍……? わ……私は一体……うぅっ…………!」

 光河は激しい頭痛に襲われ、頭を抱えて蹲った。

 春菜は舌打ちをし、再び影で夫を覆う。だが、紫流はそれを阻止しようと彼女に飛び掛かった。
 やがて二人が揉み合いになったところ――、


「たのもーーーーーーーー!!」

 秋葉のどすの効いた大音声の挨拶が屋敷中に響いた。