「春菜! あ、秋葉っ!?」

 両親が慌てて娘たちのもとへ駆け寄る。双子はしっかりと手を繋いで、横たわっていた。
 春菜はぼんやりと目を開けて、ゆっくりと上半身を起こす。
 一方、秋葉は倒れた状態で瞳を閉じたままだった。

「わ……わたしは……。熱いっ……!」

 春菜は額に熱を感じて手を触れる。そこだけ沸騰しているような、強烈な熱さだった。

「は……春菜……。その御印は……!?」

「え……?」

 夏純も冬子も、信じられない光景に腰を抜かした。
 かつて秋葉の額にあった龍神の花嫁の御印は、そっくりそのまま春菜の額に宿っていたのだ。

 そして、意識を失い横たわっている秋葉の額には、もう何の痕跡も残っていなかった。
 それどころか、彼女の体内からは一滴の霊力も感じられない。

 秋葉と春菜の力は、反転してしまった。
 しかも、秋葉は空っぽになって。




 その後は、双子を取り巻く環境はすっかり変わってしまった。
 龍神の御印が出たことによって、春菜は神の花嫁になった。
 そして、なんの霊力も残っていない秋葉は、当然皇族と縁続きになれるはずもなく――……。

「きゃっ!」

 秋葉は父から離れの納屋(なや)に乱暴に投げ込まれた。

「この穀潰しが。生かしてもらえるだけ有り難く思え」

 見上げると、これまでに見たこともなかった父の冷ややかな視線。その後ろには同じ目をした母と、うっすらと笑みを漏らしている妹の姿があった。

 その日から、秋葉だけが四ツ折家の家族ではなくなった。








 それから五年。
 今日は双子が十七歳になる誕生の日だった。
 即ち、龍神様のもとへ嫁入りに行く日だ。

 秋葉ではなく――御印を持つ春菜が。